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ひとこと小説「THE FIRST TAKE」

あの日録った“声”が、君の正体だった🎤🕵️‍♂️


「……また録ってたの?」

📍
表参道の裏通り、イヤホンを外した瞬間、背後から静かな声がした。
振り返ると、そこには懐かしすぎて痛い笑顔があった。

純白のシャツ、落ち着いたトーンのスラックス、そして――
あの頃と同じ、黒いTHE FIRST TAKEのトートバッグを肩にかけていた。

「君の“声”が、消えなかった」
俺はそう呟いた。

📼
俺は公安の音声解析班の職員だった。
彼女・遥は、ある疑惑の浮上した元国際会議通訳。
過去に機密漏洩が疑われ、俺は“彼女の声”を長期的にモニタリングする任務を受けた。

でもある日、彼女の通訳ブースで、マイク越しに「ありがとう」と微笑まれた瞬間、
任務より先に、心が反応してしまった。

🎙
「私を盗聴して、何を得たの?」
遥は穏やかに問いかけてきた。

「最初は“証拠”のためだった。でも今は……」
「今は?」
「君の歌声が、俺の心を掴んだ」

🎧
彼女は、通訳業の傍ら、素性を隠して歌を録っていた。
匿名投稿サイトに上がっていたその音源を俺が解析し、声紋で一致を見つけた瞬間、
俺はすべてを理解した。

あの歌は、俺に向けて歌ったものだった。
「録られていることを、ずっと知ってたの」
遥が笑う。
「だから“歌った”の。あなたにだけ届くように」

💌
彼女はトートバッグの奥から、白い小型レコーダーを取り出した。
そこには、俺が過去に破棄したはずの“最初の音声”――
任務開始の日、俺が自分自身に録音した言葉が残されていた。

「対象は女性。やや感情的。だが、声が……とても綺麗だ」

それは、分析ではなく“心の告白”だった。

💡
「どうして、それを……?」
「あなたの“THE FIRST TAKE”。拾って、保管してたの」

彼女は再生ボタンを押した。
再び、あの日の俺の“声”が響いた。
たどたどしく、でもまっすぐな本音。

「本当は、ずっと前から気づいてた」
遥の瞳が潤んでいた。

📻
「私たち、共犯ね」
彼女が微笑む。

「“盗聴”と“告白”で罪になるなら、一緒に罪を背負おうか」
俺はそう返した。

彼女の手を取ると、指先が少し震えていた。
でも、離れようとはしなかった。

🕶
「これが最初で、最後の任務だ」
「じゃあ、録って。あなたの“声”で」
「何を?」
「“愛してる”って」

THE FIRST TAKE、一発録りの告白。
それが、すべての始まりだった。

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