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ひとこと小説「波うららかに、めおと日和」

流れ着く瓶は一通だけの運命📜✨

🌅夏の終わり。

湘南の浜辺でビーチクリーンに励む美緒(みお)は、波打ち際で小瓶を拾った。

磨りガラス越しに見える巻紙。

胸の高鳴りを抑えつつコルクを抜く。

 

波うららかに、めおと日和。
この手紙を手にした方へ。
八月二十七日、日没の稚児ヶ淵でお会いできれば幸いです――S

 

誰かの遊び心かもしれない。

けれど、父とよく訪れた海からの贈り物のようで、美緒は紙をそっと巻き直し、瓶ごとトートバッグにしまった。

「誰かの冗談でも、海から届いた手紙ってちょっとロマンチックかも」📜✨

 

🗓️八月二十七日。

美緒はその小瓶をバッグに入れて稚児ヶ淵を訪れた。

日没が近づき、彼女は岩場に腰かけて、そっと瓶を取り出し、夕陽に透かして眺めた。

瓶の中で巻紙が静かに揺れる。

 

そのとき、背後から声がかかる。

 

「すみません! その瓶、あなたが拾ったんですか?」

 

振り向くと、やや息を切らした青年が瓶を見つめて立っていた。

「はじめまして。僕、澄人(すみと)って言います。
それ、十年前に父と流した瓶なんです」

 

🎧澄人は静かに語り出す。

十年前、航海士だった父と「人生のボトルレター」と称し、全国七海域に手紙入りの瓶を流した。

六本は数年内に戻ってきたが、潮流計算どおりなら相模湾に届くはずの最後の一本だけが戻らなかった。

 

父は三年前に病で他界。

遺品の航路図には 「湘南で待つ」 の赤丸と瓶番号“07”。

「最後の一本だけは、どうしても誰かに届いてほしい。
出会えた相手こそ、父にとっての“終着点”なんです」

 

ネットの地方新聞に全文と瓶番号を投稿し、「見かけた方は写真と共に」と呼びかけた。

数日後、“MiO”という名前で「それ、私が拾いました」との返信コメントが届いた。
そこにはブログURLが添えられており、リンク先には瓶の写真と拾得日時、美緒の思い出を綴った文章があった。

「あなたの書いた言葉が、なんだか父の言葉に重なった気がして……どうしても会いたかったんです」

 

🌇潮が引き、岩肌が夕日に染まる。

澄人はバッグから同じ形の瓶を取り出し、蓋を開けて、内側に名前が刻まれていない指輪を取り出した。

 

「父は言いました。
『最後の一本が届いたとき、その場で出会った人に渡せ』って。

まだ答えは急がない。

でも……この指輪を“瓶を届けてくれた証明”として受け取ってもらえませんか?」

 

突然の申し出に、美緒は驚きを隠せない。

けれど、瓶の首に巻かれていた真鍮の錨チャームを見て息をのむ。

それは、かつて父からもらった羅針盤と同じ意匠だった。

偶然とは思えない、あたたかな繋がり。

 

「じゃあ……この指輪。

名前を刻むのは、もう少し先にしよう。

私たちの物語が、始まってから」😊💫

 

澄人はほっと笑ってうなずいた。

二人は瓶を海へそっと戻す。

波間にきらめきながら、瓶は静かに遠ざかっていった。

 

波うららかに、めおと日和。

父たちが描いた最後の地図の交点が、ようやく今日つながった。

これから続く航路は、美緒と澄人が手を取り合って進む、新たな物語のはじまり。

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