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ひとこと小説「最後の夏祭り」

「すれ違いの約束」

駅前の坂道を下ると、夏祭りの提灯が風に揺れていた🎐
あの夜と同じ光景だった。

——三年前の夏、僕たちは約束した。
「来年も、この場所で会おう」って。

大学進学で遠くに行った君と、唯一の再会の約束。
けれど次の夏も、その次の夏も、君は現れなかった。

僕は諦めきれず、今年もこの場所に来た。
屋台の灯り、子どもたちの笑い声、浴衣の香り。
すべてが懐かしくて、切ない。

射的を眺めながら立ち尽くしていると、不意に背後から声がした。
「ねえ、それ、得意だったよね?」

振り向いた僕の目の前には、浴衣姿の君がいた👘

「……来ないと思ってた」
そう言うと、君は少し困ったように笑った。

「毎年来てたよ。後ろから声をかける勇気がなかっただけ」
「え?」

驚いて聞き返すと、君は頷いた。
「すごく変わってたから、声をかけて違ったら恥ずかしいなって」
「僕も、同じだった」

二人で笑った😊

「じゃあ、なに? 毎年、すれ違ってたってこと?」
「うん、多分」

他愛ない会話が、なぜか胸を締めつけた。

「今年も帰ろうと思ってたけど……今年は勇気を出そうって思ったの」
「よかった。やっと会えた」

花火が打ち上がる音がした🎆
夜空に咲く光を見上げながら、僕は言った。

「来年は、ちゃんと名前呼ぶから」
「うん、私も」

そう言って笑った君の横顔は、昔よりずっと大人びていた。

でも——
来年はきっと、もうすれ違わない。

「ねえ、せっかくだし、金魚すくいしない?」
「まだ得意なの?」
「うん。3匹までは保証できる」

君は笑いながら、僕の腕を引いた。
手のぬくもりが、少しだけ汗ばんでいて、それが嬉しかった。

懐かしくて、新しい。
そんな夏の夜だった🌙

僕たちは、そのまま屋台をまわりながら、昔話に花を咲かせた。
離れていた時間を埋めるように、話が止まらなかった。
最後の花火が夜空を彩ったとき、君がぽつりと言った。

「また、来年も来ようね」

今度こそ、その言葉を信じられる気がした。🌟

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