
「ふたりの間違い」
日曜の昼下がり、駅近くのフラワーショップ「花と月」で、黄色いチューリップの花束を作ってもらった💐
「元気が出る感じで」とお願いすると、店員さんが笑顔でうなずいた。
僕は内心、緊張でいっぱいだった。
——今日、あの人に会える。
高校の卒業以来、ずっと想い続けていた人。
SNSで「佐伯」という名前を見つけて、写真がなかったけど、名前だけで確信してしまった。
「これは、紗季さんだ」と。
メッセージを送ると、すぐに「久しぶりに会いましょう」と返事が来た。
場所も時間も決まり、いま僕はそのカフェに向かっている。
店内をのぞくと、入口近くの席に座る女性がいた。
どこか懐かしい雰囲気に見えた。
思わず花束を抱えて声をかけた。
「佐伯紗季さん…ですよね?」
彼女は驚いた顔で立ち上がった。
「はい、佐伯紗季ですが……えっと……もしかして、田中和真さん?」
「え?……ちがいます。僕は山口悠人です」
二人の間に、すこしだけ間が空いた。
彼女が苦笑いを浮かべて言った。
「変ですね。私もSNSで“山口さん”を見かけて、あの人かもと思って返事したんです」
僕は花束を抱えたまま、ぽかんとしながらも、つい笑ってしまった😊
「つまり……お互い、人違いってことですか?」
「はい。でも……変ですね。なぜか断る気がしなかったんです」
彼女も笑った。
ベンチに腰かけ、ふたりでその偶然を笑い合ったあと、なんとなく「せっかくだから」とそのままお茶をすることに☕
話は不思議と弾んだ。
同じような音楽が好きで、映画の趣味も近くて。
花束の話になったとき、彼女が言った。
「実は私も、あのフラワーショップで同じの作ってもらったんです。渡すつもりだったけど、やめちゃって」
「もしかして、黄色いチューリップ?」
彼女が目を見開いた。
バッグの中には、僕とまったく同じ花束が入っていた。
思わずふたりで笑い合った。
——すれ違いから始まった出会い。
でも、不思議と、ぴったり重なった気がした。
別れ際、僕は思いきって言った。
「次は、ちゃんと名前も顔も知ってる状態で会いませんか?」
彼女は少し照れながら、ふわりと微笑んだ。
「うん、次は間違えないように」🌷
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