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ひとこと小説「待ちぼうけのベンチ」

「最後の返信」

公園の片隅にある、誰も座らない古いベンチ。
今日も私は、そこに腰を下ろしてスマホを見つめている📱

「17時に、いつもの場所で」
そうメッセージが届いたのは、昨日の夜だった。

送り主の名前は「拓真」。
でも、私は知っている。
このメッセージが送られてくるのは、今日でちょうど一年ぶり。

あの日も、彼は同じ文面を送ってきた。
私はその通りにここへ来たけれど——
彼は現れなかった。

そしてその日の夜、彼のバイク事故のニュースが流れた。
即死だったらしい。

なのに、なぜか。
事故以来、毎年同じ日、同じ時間に同じメッセージが届く。

最初はバグかと思った。
でもアカウントは凍結されていたし、誰もアクセスできないはずだった。

それでも、メッセージは届く。
今年も……また。

「ごめん、遅れた」

その通知音に、心臓が飛び跳ねた。

画面には、既読のマークと、たった今届いた新しいメッセージが並んでいた。

「え……」

思わず周囲を見回す。
でも、公園には私しかいない。

おそるおそる返信を打ち込む。

『……どこにいるの?』

すぐに「既読」がつく。

「見えてるよ」

スマホを落としそうになる手を、私は強く握りしめた。

目の前のベンチには、誰もいない。

けれど、ふと——
隣の空間に、すうっと空気の揺れを感じた。

まるで誰かが、そこに腰を下ろしたかのように🍃

そして、スマホがもう一度震える。

「ありがとう。来てくれて」

その文字を見た瞬間、涙が溢れた。

返事はもう打てなかった。

ただ静かに、私はベンチに並んで座り続けた。

あの日と同じように。

もう、メッセージは来ないかもしれない。
でも、私はこれでやっと、彼を送ることができた気がした。

夕暮れの光が差し込み、ベンチの影がふたつ分、長く伸びていた🌇

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