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ひとこと小説「影の向こう側」

「最後に届いた、あの日の“さようなら”」

夕暮れの帰り道、ふと足を止めた。
歩道に伸びた長い影が、誰かの姿と重なった気がして。

その先には、見覚えのある小さな後ろ姿。
白いワンピースが夕陽に溶け込むように揺れていた。

まさか、そんなはずない。
彼女はもう、いないのに。

でも、あの日別れを告げられなかった僕の記憶が、勝手に彼女をそこに映し出したのかもしれない。

最後に会ったのは、ちょうど一年前の今日。
「またね」と言った彼女の声が、やけに軽くて。
何か言いたげだったのに、僕はそれを聞き流した。

数日後、事故の知らせが届いた。
最後の言葉が「またね」だったことが、ずっと心に引っかかっていた。

それから毎年、今日だけはあの道を歩くようになった。
会えるわけがないのに。

でも今日は違った。
影の向こうで、確かに彼女が振り返ったんだ。
一瞬、笑ったように見えた。

そして、小さく口が動いた。
「――さようなら」

その瞬間、胸の奥で何かが溶けた。
ようやく、彼女からの最後の言葉が届いた気がした。

気づけば涙がこぼれていた。
でも、悲しみじゃなかった。
あたたかいものが、心を包んでいた。

ふたりで歩いた時間も、交わした言葉も、もう戻らないけれど。
あの影の中に、確かに彼女はいたんだ。

いや、今でもどこかで見守ってくれているのかもしれない。

もう振り返らない。
影は夜に飲まれ、道は静かに闇に沈んでいった🌙

そして僕は、少しだけ前を向いて歩き出した。
彼女の影は、もうそこにはなかった。

でも、僕の中にはずっと残っている。
やさしい光とともに――✨

その晩、彼女の好きだった曲を、久しぶりにレコードで聴いた。
針が落ちる音に重なって、どこか懐かしい風が部屋を通り抜けた。

思い出は、音と影に溶け込んで、今も僕のそばにある。

ふと窓の外を見ると、月が雲の切れ間から顔を出していた🌕
静かな夜の底で、僕はひとり、でもひとりじゃなかった。
忘れない。
彼女が笑っていた、あの最後の影のかたちを🌇

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