
「記憶のかけら」
「幼い頃の思い出、何か覚えてる?」
友人に聞かれて、答えに詰まった。
他愛のない話題のはずなのに、頭の中は真っ白だった。
みんなの話はカラフルだ。
家族旅行、誕生日パーティー、父の肩車…。🎈
それを聞きながら、自分の記憶を辿るけれど、どうにも輪郭がぼやけている。
あるのは、ほんのわずかな断片だけ。
例えば、寒い冬の朝。
学校に行く準備をしていた私に、母が手袋をはめてくれたこと。
その手はいつも暖かくて、大きかった。🧤
でも、それ以外は不思議なほど何も浮かばない。
あの手袋は何色だったのか。
母はどんな声で話していたのか。
そんなことさえも曖昧だ。
どうしてこんなに思い出せないんだろう。
「覚えてるのは…母の手の温かさくらいかな。」
そう答えると、友人は意外そうな顔をした。
「それって、素敵な記憶じゃない?」
素敵…なのか。
その時はピンとこなかったけれど、家に帰ってからふと考えた。
記憶って、形や鮮明さよりも、その中にある感情が大切なのかもしれない。🌟
母の手の温かさを思い出すたび、心が少しだけ柔らかくなるのは事実だ。
それなら、これが私の大切な記憶でもいいんじゃないか。
今度は友人に聞かれたら、もう少し胸を張って言える気がする。
「私の宝物は、母の温もりだ。」
そう答える日がきっと来る。
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