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ひとこと小説「小さな勇気」

「その一言で、世界が裏返った」

「おはよう」
その声が聞こえた瞬間、心臓が止まるかと思った。

……なぜ、彼女がここに?

僕は、名前も素性も変えてこの街に来た。
過去を捨て、新しい人生を始めたはずだった。
なのに、目の前には――中学のときの担任の娘、唯。

当時、教師だった父は問題を起こし、僕たち一家は世間から姿を消した。
転校先では「父が教師だった」ことも伏せ、普通の学生として生き直してきた。
人間関係も、恋も、すべて壊れないよう慎重に。
それが僕のルールだった。

でも唯は、そんな僕の心の中にずけずけと入り込んできた。
転入初日から隣の席で、「新しい友達って、なんかワクワクするよね」なんて笑って。

その日から、彼女との日常が始まった。
いつも明るく、飾らず、でもときどき鋭いことを言う。
僕は惹かれた。
怖かったけど、もっと話したいと思った。

そして、春。
唯が初めて、僕の名字を旧姓で呼んだ。

「ごめん。ずっと気づいてた」
「でも、今のあなたが好きだから、気づかないふりをしてたの」

僕は、逃げようとした。
でも――唯が笑って言った。

「おはよう。今日も、逃げないでね」😊

あの一言で、心の鎧が溶けた気がした。
過去を知ったうえで、今の僕を受け入れてくれる人がいる。
そんな奇跡みたいなことが、本当にあるなんて。

その日から少しずつ、僕は人を信じる練習を始めた。
誰かに心を開くのがこんなに怖くて、でもこんなにも温かいなんて知らなかった。

唯とはまだ、恋人でもなんでもない。
でも「今日も話せた」というだけで、昨日より未来が好きになる気がする🌸

名前なんて変えても、過去を切り捨てても、
心までは変えられない。

だけど「おはよう」と笑ってくれる誰かがいれば、
人は、何度でもやり直せる。

そしてそれは、特別な何かじゃなくていい。
毎朝の挨拶、隣にいる誰かへの小さな勇気。
そんな一歩が、人生を変えてしまうこともあるのだ☀️

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