
「最終バス」
夜の街に冷たい風が吹き抜ける中、最終バスがやってきた。
疲れ切った体を引きずるように乗り込むと、車内は思ったよりも混んでいて、空席はほとんどなかった。
一番後ろの席に目を向けると、そこには懐かしい顔があった。
「…遼?」
声に出す前に彼がこちらを振り返る。
それは確かに、高校時代の親友だった遼だ。
10年以上も会っていなかったが、その面影はそのままだった。
「あれ、千佳か?」
彼もすぐに私に気づき、驚きと笑顔が混ざった表情を浮かべる。
懐かしさが胸を満たし、私は彼の隣に座った。
互いの近況を話しながら、バスはどんどん終点に近づいていく。
仕事のこと、家族のこと、昔の思い出――会話は途切れることがなかった。
やがてバスが終点に到着する。
降りる時、彼が言った。
「俺、ここで降りるけど、千佳は?」
少し戸惑った。
このバスの終点に来るのは、普段ならあり得ない。
終点の先には何もない郊外の街だ。
「…そうだね、私もここで降りる。」
なぜそんな答えをしたのか、自分でも分からなかった。
バスを降りると、そこには懐かしい景色が広がっていた。
それは、私たちが一緒に通った高校の最寄り駅だった。
「不思議だよな。こんな偶然、あるんだな。」
彼が呟く。
その声が夜風に溶ける。
ふと、胸の中に静かな暖かさが芽生える。
最終バスでの再会が、私たちの記憶の旅を再び始めさせたのだ。
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