
「祖母の秘密」
祖母の家の屋根裏を整理していたとき、古びた錆びた鍵が出てきた。
鍵には何の刻印もなく、どこで使うものかもわからない。
不思議に思いながらも、手に取ると、かすかに祖母の香水のような懐かしい香りが漂った。🌸
部屋の隅には、埃をかぶった小さな木箱が置かれていた。
鍵穴の形が妙に気になり、試しに鍵を差し込むと、ピッタリとはまる。
意を決して回すと、金属音と共に箱が開いた。
中には一冊の古いアルバムが入っていた。
ページをめくると、若き日の祖母が微笑む写真が並んでいたが、その中に見知らぬ男性と腕を組んでいる一枚があった。
写真の裏には、鉛筆で『1945年 夏』とだけ書かれている。
祖母に尋ねても、「そんな写真は知らないよ」と笑っていたが、その表情にはどこか影が差していた。
それから数日後、祖母がぽつりと語り始めた。
「あの人は、私が最初に好きになった人なのよ。 でも、戦争で亡くなってしまったの。」
祖母の目には、涙が浮かんでいた。
若かりし頃の恋が、あの写真と共に箱の中に閉じ込められていたのだ。
その鍵は、祖母の心の奥深くに眠る記憶を解き放つものだった。🌐
写真を見つめながら、祖母はそっと微笑んだ。
「忘れていたはずなのに、不思議ね。 あの時のこと、昨日のことのように思い出すわ。」
その表情は、どこか清々しいものだった。
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