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野良猫が消えた町で人が迷う理由 第2話

野良猫が消えた町で、迷子になるのはなぜか人だけだった。
いつもの道なのに、目印が消えた瞬間、帰り方がわからなくなる。
この第2話では、“猫が担っていた役割”と、人が取り戻す小さな地図を描く。

町から野良猫が姿を消して、三日目の朝だった。
駅前の掲示板に、道案内の紙が何枚も重なって貼られていた。
行き先は同じなのに、矢印はばらばらで、どれも少しずつ角度が違う。
まるで誰かが、確信を持って間違え続けた痕跡のようだった。

第1話では、町の人々は猫がいなくなった理由を「自然なこと」として受け入れた。
だが、その代わりに起きた変化を、まだ言葉にできずにいる。
それは迷子だ。
子どもだけではない。
大人も、老人も、毎日通る道で足を止めるようになった。

私は交番の前で立ち尽くす男性を見かけた。
地図アプリを開いたまま、画面を何度も拡大している。
「ここ、さっきも通りましたよね」と私が声をかけると、彼は曖昧に笑った。
「通ったはずなんです。でも、目印がなくて」
彼の視線は、かつて猫が丸くなっていた花壇の縁に向けられていた。

この町では、猫は地図だった。
看板よりも正確で、言葉よりも親切だった。
角を曲がると、日向に猫が寝ている。
それだけで、人は「いつもの場所」に戻れた。
猫は道を教えなかったが、道の存在を確かにしてくれていた。

私はふと、以前読んだ“消えるもの”の話を思い出した。
足音の代わりに、静けさだけが残る感じが似ていたからだ。
ひと言小説「消える足跡の記憶」に出てくる「残ったのは、困り顔だけ」という一文が、今の町そのものに思えた。

午後、商店街の奥で迷子放送が流れた。
名前を呼ばれているのは、五十代の男性だった。
誰かの父で、誰かの上司で、誰かの隣人。
それでも、彼は今、帰り道を失っている。
人々は顔を見合わせ、少しだけ困った表情で立ち止まった。

私は町の端にある公園へ向かった。
ベンチの下、植え込みの影、砂場の隅。
猫がいなくなった場所を、順番に確かめる。
そこには静けさだけが残り、風の向きがわからなくなっていた。

ふと、足元に白い毛が一本落ちているのを見つけた。
昨日までここにいた証拠だ。
それを拾い上げると、胸の奥が少しだけ軽くなる。
失われたものは、完全には消えていない。

夕方、町に不思議な変化が起きた。
迷っていた人たちが、少しずつ同じ方向を向き始めたのだ。
理由は単純だった。
誰かが猫の代わりに、立ち止まって座った。
花壇の縁、交差点の角、店先の影。

その光景は、ただの親切以上のものに見えた。
迷子の人が「自分が迷っている」と認めてもいい空気が、そこにあった。
私は“再会”の話を思い出し、胸の奥がじんとした。
迷いの先には、戻れる場所がある。
ひと言小説「最終バスでの再会」みたいに、遅い時間ほど本音が出ることもあるのだろう。

人が、人のために、目印になった。
言葉は少なく、ただそこにいる。
それだけで、通り過ぎる誰かの足取りが戻ってくる。

夜、私は家路につきながら思った。
野良猫がいなくなった町で、人だけが迷子になる理由。
それは、頼り方を忘れていたからだ。
そして今、頼られ方を思い出し始めている。

次の朝、町は少しだけ静かだった。
迷子の紙は減り、代わりに小さな椅子が増えていた。
猫はまだ戻らない。
それでも、人はもう一度、道を見つけ始めている。

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ひとこと小説「月夜の再会」
駅に通う猫が教えてくれた小さな奇跡と人のつながり

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小説「野良猫が消えた町で人だけが迷子になる理由」の後日談と続編は、noteにて公開しています。
“目印”になった椅子の先で、町の人が何を見つけるのか。
よろしければこちらもご覧ください。

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