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ひとこと小説「キャスター」

画面越しに伝えた最後のメッセージ🎙️

「報道って、誰かの心に届くものだと信じたい」

そう言って笑った君の姿が、今も頭から離れない。

僕がADとしてテレビ局に入った年、現場で一番輝いて見えたのが新人キャスターの真帆だった。

朝5時入りのロケでも、深夜までの編集でも、彼女は文句ひとつ言わず、画面の向こうにいる“誰か”を信じて原稿を読んでいた。

気づけば、僕は彼女に惹かれていた。

でも、キャスターとAD。
立場も違えば、世界も違う。
それでも仕事を重ねるうち、少しずつ距離が近づいていった。

ある夜の打ち上げで、酔った勢いで「真帆さんが読むニュース、すごく好きです」と言ったら、彼女は静かに笑った。

「じゃあ、いつかあなたの書いた原稿、読ませてね」

その言葉が、僕の背中を押してくれた。
報道の現場は厳しくて、何度も折れそうになったけど、いつか彼女に読まれる原稿を書こうと必死で走り続けた。

──けれど、彼女は突然いなくなった。

事故だった。
取材帰りの高速道路で、巻き込まれた多重衝突。
病院に運ばれたが、帰らぬ人となった。

信じられなかった。
朝まで編集室に残って、原稿に目を通していたあの人が、もういないなんて。

局内は静まり返り、僕も言葉を失った。

でも数日後、社内サーバーに未公開の動画が残っていることに気づいた。

そこには、事故当日のスタジオで、試し撮りとして読んだ映像が残っていた。

その原稿──それは僕が初めて一人で書いた短い特集だった。

彼女はゆっくりと、それを読み上げた。

「大切なのは、“伝えたい”という気持ちです」

最後の一文を読んだあと、彼女はカメラを見て、笑った。

「……この原稿、すごく好き」

僕は、その映像の前で、ただ涙を流した。

画面越しに、彼女の言葉がちゃんと僕の心に届いていた。

あの日、伝えられなかった気持ち。
もう届かないと思っていた想いが、こんなかたちで返ってきた。

だから今も、僕はキャスター席の前で原稿を書く。

もう一度、君に読んでもらえると信じて。

🎙️📺💫

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