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ひとこと小説「渡せなかった切符」

「たった一駅のすれ違い」

彼女の家まで、電車でたった三駅だった。
それでも、僕にとっては遠くに感じられる距離だった🚃

最初に会ったのは、大学の入学式。
不安と期待が入り混じる中、隣の席にいた彼女が、笑顔で話しかけてきた。
「同じ学部? 一緒の学部の人がいてチョット安心した」
それから僕たちは、自然といつも一緒にいるようになった。

春が夏になり、夏が秋になっても、その関係は変わらなかった。
仲がいい。だけど、それ以上じゃない。
それが、僕にはもどかしくて仕方なかった🍂

「今度、映画でも行かない?」
そんな軽い誘いを何度もかけたけど、彼女はいつも笑ってはぐらかした。
ある日、思い切って切符を2枚買った。
彼女の好きな映画が上映される日曜の夜の分。
切符を渡せば、何かが変わるかもしれない——そう思った。

けれど、待ち合わせ場所に彼女は来なかった。
電話もLINEも既読にならず、次の日から彼女は大学にも来なくなった。

一週間後、彼女の親友から聞かされた。
「彼女、実家に戻ったんだって。急に決まって……多分、もうこっちには戻らないと思う」
理由は教えてもらえなかった。

ポケットに残ったままの切符を見て、僕は笑った。
「渡せなかった切符」って、こんなにも重たいものなんだなって。

数年後、出張で降り立った小さな駅。
ふと見上げた改札の向こうに、見覚えのある横顔があった。

——彼女だった。

けれど、彼女の隣には幼い男の子が手を握って立っていた。
目が合った彼女は、少しだけ驚いた顔をして、そして微笑んだ😊

僕も、軽く会釈を返した。
ポケットに残っていた、あの日の切符。
もう使うことはないけれど——

僕はそれを、駅前のポストにそっと投げ入れた📮
「もう、届かなくていい」
そんな風に、心の中でさよならを呟いた。 帰りの電車の窓に映る自分の顔が、少しだけ大人びて見えた。
誰かを想う気持ちは、きっと無駄じゃなかったんだと思う。
手渡せなかった切符の代わりに、僕はあの笑顔を心にしまった。
それが、僕の旅のはじまりだった🚉

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