本ページはプロモーションが含まれています

ひと言小説「消える足跡の記憶」🌅👣

「波に消される二人」

砂浜に刻まれた二人の足跡は、寄せては返す波に触れるたびに、少しずつ形を失っていく。

「また、ここに来ることになるなんてね。」

彼女がそう呟き、遠くを見つめる。

夏の終わりに訪れたこの海は、まるで記憶の断片を映し出すようだった。

彼女との最後の思い出は、10年前のこの場所。

青いパラソルの下で笑い合い、夜になれば砂に寝転んで星を眺めたあの日々が、突然胸の奥で蘇る。

「そうだな。あの頃と、何も変わらない気がするよ。」

彼は笑うが、その目はどこか寂しげだ。

沈む夕日が二人の影を長く引き伸ばす中、彼女がふと立ち止まり、足元を見つめた。

「私たちの足跡、もうすぐ消えるね。」

波打ち際に目を向けると、足跡が波にさらわれ、跡形もなくなる瞬間だった。

「消えるのが怖い?」

彼が優しく尋ねる。

彼女は小さく首を振る。

「むしろ、いいと思う。きっと、新しい足跡を残せるから。」

静かな波音の中で二人の視線が交わる。

しかし、次の波が打ち寄せた時、彼女は背を向けて歩き出した。

振り返ることなく、砂浜の向こうへ消えていく。

残された彼は、一度深呼吸し、そして足元の消えゆく足跡を眺めた。

「次は、どんな足跡を残すんだろうな…」

そう呟く彼の声は、波音に溶けて消えていった。

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました