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ひとこと小説「線香花火の恋」

消えそうで、でも消えなかったあの夏の想い🎇

ぱち、ぱち……小さな火花が夜に咲いては散る。
夏の終わり、蝉の声もどこか遠くに感じる夜。

僕たちは祭りの帰り道、公園のベンチに座って線香花火に火をつけた。

「最後まで落とさずにいられたら、願いが叶うんだって」
浴衣姿の彼女が、小さな声で言った。

「へぇ、じゃあ何を願うの?」
僕がそう聞くと、彼女はちょっとだけ照れて笑った。

「それは……秘密」

火花がしゅるしゅると伸びて、二人の間の距離を照らしていく。
僕の願いは、簡単だった。
ただ、彼女とずっと一緒にいたい。
この一瞬が永遠であればいい——それだけだった。

先に彼女の線香花火が落ちた。
「あーあ、終わっちゃった」
そう言って見せた笑顔が、なぜか少しだけ切なかった。

次に、僕の火花もふわりと地面に舞い落ちた。

あの夏の翌月、彼女は突然、父親の転勤で引っ越すことになった。
「落ち着いたら連絡するね」
そう言って駅で手を振ったきり、LINEの返信もだんだんと減っていった。

高校、大学、就職。
環境が変わるたびに思い出も薄れていく中で、それでもあの夜の記憶だけは鮮明だった。

だから、僕は毎年8月の終わりに同じ公園で線香花火を灯している。
誰に見せるでもなく、ただ自分の中の何かを確かめるために。

今年もまた、ひとり。
火花が揺れ、心の奥をくすぐるように照らしていた。

ふと、ベンチの端に白い封筒があるのに気づいた。
誰かの忘れ物かと思って手に取ると、表には僕の名前が書かれていた。

見覚えのある文字。

中には一枚の手紙。

「ずっと、あの日を覚えてる。
毎年、火を灯してくれてありがとう。
私も、同じ願いをしてたんだよ」

涙がにじむ視界の中で、誰かの足音が近づいた。

振り返ると——そこに、彼女が立っていた。

線香花火のように、消えてしまったと思っていた恋。
でも、それはまだ胸の奥で静かに灯っていた✨

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