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ひとこと小説「春色の思い出」

「舞い散る花びらが、心を揺らす瞬間」

駅前の坂道を登った先に、あの桜並木がある。
四月の風に乗って、花びらが舞い始めた。
僕は、そっと目を閉じる。

彼女が笑っていた春が、ふいに蘇る。
「こっち、こっち!」と手を振っていた姿。
その笑顔が、ずっと心に焼き付いて離れない。🌸

あれから何年も経ったのに、桜を見ると胸がざわつく。
忘れられない記憶ほど、意外と色鮮やかに残っているものだ。
もう、彼女はいない。
それでも毎年、桜の季節になると、自然とこの坂を登ってしまう。

ポケットの中にある、小さな手紙。
彼女が最後にくれたもの。
開けることができなかった。
ずっと怖かった。

でも今日、ふと決心がついた。
花びらの舞う中で、封を切る。

そこには、あの頃と変わらない丸い文字で、こう書かれていた。

「桜が咲いたら、もう一度会おうね」

……え?
信じられず、手紙を持つ手が震える。

ふと、背後から声がした。

「ねえ、ずっと待ってたんだよ?」

振り向くと、そこには――
彼女と、そっくりな笑顔の女の子が立っていた。

「ママの手紙、ちゃんと渡せてよかった」

彼女の面影をそのまま写した少女は、花びらの中で微笑んでいた😊

時が止まったような春の午後。
蘇ったのは、思い出だけじゃなかった。

「あなたに、伝えたかったんだって。最後まで言えなかった想いを」
そう言って、少女は胸のポシェットから、もう一通の手紙を差し出す。

震える指で受け取り、開封する。

「あなたと過ごした春が、私のいちばん好きな季節になったよ。
ありがとう。
そして……あなたに会えて、本当によかった」

文字の最後に添えられていたのは、彼女の似顔絵と、満開の桜🌸

僕は涙をこらえながら笑った。
春が、ようやく前を向ける季節になった気がした。

少女が小さくうなずく。
「ママは、あなたのこと、ずっと大好きだったよ」

風がそっと吹いて、空に舞った花びらが、まるで彼女の声のように優しく響いた。

そして僕は、ようやく手放せた気がした。
過去ではなく、これから始まる春の中へ――

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