
「涙の理由」
駅へ向かう途中、足元に花束が落ちていた💐
鮮やかなバラとカスミソウ——まるで、誰かの大切な想いが詰まった贈り物のようだった
拾い上げ、持ち主を探す
少し先のベンチに、女性が座っていた
俯き、肩を震わせながら、小さな封筒を握りしめている✉️
「これ……落としましたか?」
声をかけると、彼女ははっと顔を上げた
涙に濡れた瞳が、驚きに揺れる
「……ありがとう」
震える手で花束を受け取る
その瞬間、彼女の指から封筒が滑り落ちた
拾い上げた俺の視線が、封筒に記された文字をとらえる
「婚約破棄届」
息をのむ
彼女は封筒を見つめ、そっと微笑もうとした——けれど、唇が震えてうまく形にならない
「彼に、これを返そうと思ったんです」
彼女は花束をそっと撫でる
「プロポーズの日、彼がくれたのと同じ花束……別れを伝えるなら、ちゃんとあの日の気持ちを持っていこうと思って」
風が吹いた🌸
彼女の髪が揺れ、花束の甘い香りがふわりと漂う
「でも、やっぱり……渡せなかった」
その呟きが、春の空に溶けていく
「……大丈夫ですか?」
彼女は涙の跡を残したまま、少しだけ微笑んだ 「……大丈夫になりたいです」
コメント