
「あの日の笑顔が、今も焼きついている」
ポラロイドカメラを手に、久しぶりに海辺へ向かった。
あの夏、彼女と最後に歩いた道を、一人でたどるように。
満月が静かに浮かぶ夜だった🌕
波の音も、風の匂いも、あの頃と何も変わっていないように思えた。
カメラを構え、シャッターを切る。
パチン、と懐かしい音が響いた。
現像されるまでの数十秒。
ただ、海の闇に目を凝らして立ち尽くす。📸
小さな白い枠が、じわじわと像を浮かび上がらせる。
「……嘘だろ」
言葉が漏れた。
写真の隅に、ありえないものが写っていた。
彼女。
あの時とまったく同じ白いワンピース、肩までの髪、笑顔。
波打ち際に立ち、こちらを見つめていた。
私は思わず振り返った。
けれど、そこには誰もいない。🌊
彼女は、去年の夏に事故で命を落とした。
待ち合わせの海に向かう途中、車にはねられたと聞いた。
それから、私はカメラを触れなくなった。
最後の夏の思い出が、あまりにも眩しすぎて。
でも今日、不意に押し入れの奥からこのポラロイドが出てきた。
まるで彼女が「撮って」と言っているような気がして。
そうして来た、この海だった。🌠
私は涙をこらえながら、写真をもう一度見つめた。
彼女の笑顔は、何も語らず、でも何かを伝えようとしているようだった。
ふと、写真の端に気づく。
薄くにじんだようなインクで、こう書かれていた。
――「また、来てね」
胸の奥が締めつけられるようだった。
その文字は、彼女がよく使っていた丸文字そのものだった。
私は写真をそっと胸にしまい、満月を見上げた。🌕
どこかで彼女が、笑ってくれている気がした。
また、ここに来よう。
そしてそのたびに、彼女と写ったポラロイドを撮ろう。
たとえ誰も信じてくれなくても。
この光と記憶は、私にとって本物だから。
浜辺の夜風がそっと吹いた。
涙が頬を伝い、そして不思議と、心は少しだけ軽くなっていた。
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