
「あの服は、未来から来た恋だった」
「すみません、このジャケット、どこにありましたか?」👕
振り向くと、彼が立っていた。
古びたミリタリージャケットを片手に、どこか懐かしい目をして。
私は、東京・下北沢の小さな古着屋で働いている水野ナナ。
古着が語る“時間の物語”が好きで、この仕事を選んだ。
でも、恋愛には無縁だった。
その日、彼――タケルが来店してきた。
「このジャケット……昔、俺が着てたやつにそっくりで」
不思議そうにつぶやいた彼に、私は微笑んだ。
「うちの商品は、過去から来て、未来に繋がるんです」
何気ない一言だった。
だが翌日、彼はまた現れた。
そして毎日のように通うようになり、私たちは少しずつ言葉を交わすようになった。
趣味の話、好きな映画、行きたい場所――
でも、彼にはひとつだけ謎があった。
「俺、ここに来ると……デジャヴみたいに思い出すんだ」
そして、ある日ふいに口にした。
「ナナって、前にも会った気がする」
私は笑ったけれど、彼の目は真剣だった。
数日後、閉店後の店に届いた一通の手紙📨
それは、1985年に書かれたものだった。
宛名は「水野ナナ様」
中には、古びた写真と共にこう綴られていた。
『2045年、あなたと出会うことができたなら――それが、私の唯一の願いです』
手紙の差出人の名前は、「高梨タケル」
私は息を呑んだ。
彼と同じ名前。
同じ筆跡。
その夜、彼に話すと、タケルは震える声でこう言った。
「俺、夢で見たんだ。未来で、君と歩いてる光景」
「そして……そのジャケットを着て、またここに戻るって」
古着屋の片想いは、ただの恋じゃなかった。
それは、時を超えて繋がる、未来からの片想いだった🪐❤️
私は彼の手をとった。
「なら、これからは一緒に未来を見よう」
タケルは微笑んだ。
「きっと、もう一度君に出会うために、僕はここに来たんだと思う」
店内のライトがゆっくりと暗くなっていく中、ふたりの影がひとつに重なった。 ――古着のポケットには、ふたりの時間が縫い込まれていた。
それはもう、片想いじゃなかった。
コメント