
「満月の約束」
真夜中の静けさの中、満月が空高く輝いていた。
彼女は窓辺に座り、小さな声で願いをつぶやく。「もう一度だけ、あの人に会えますように。」
その言葉は夜風に乗り、月光に吸い込まれるようだった。
次の日、彼女は何気なく駅前を歩いていた。
ふと立ち止まると、目の前には彼が立っていた。
数年前、突然音信を絶った恋人。
彼の表情は少し驚いていたが、すぐに柔らかな笑みに変わる。
「久しぶりだね。」
彼の声に胸が高鳴る。
だが、次の瞬間、彼の腕には幼い少女が抱かれていることに気づいた。
「紹介するよ、娘のさくら。」
彼女の中で時間が止まる。
満月の夜に秘めた願いが、思いも寄らない形で現実になったのだ。
だが、その現実は彼女が望んでいたものとは違っていた。
「あの日、突然消えた理由を話したいと思ってたんだ。」
彼の言葉が静かに耳に届く。
彼女は少し微笑み、首を振る。
「話さなくていいよ。今のあなたが幸せなら、それでいい。」
満月の夜がもたらしたのは、再会と同時に過去との決別だった。
窓から見上げる月が、どこか優しく彼女の背中を押しているように感じた。
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