
君の存在だけが、どうしても消せなかった🕊️
大学時代。
僕はスマホのメモ帳に、毎日何かを書き込むのが習慣だった。
課題の締切、友達との約束、バイトのシフト、思いついた言葉。
何でも残した。
その中に、ひとつだけ「消せないメモ」がある。
──「君に出会えてよかった」
それは、あの日、彼女と別れた直後に書いたものだった。
理由は些細なすれ違いだった。
でも、互いに譲れなかった。
「もうやめよう」
「……うん、今までありがとう」
夜の駅前、最後まで目を合わせられなかった。
彼女が振り返らずに歩いていった背中を、ただ見送ることしかできなかった。
家に帰ったあと、気づけば震える手でスマホを握っていた。
そして、たった一行だけ書いた。
「君に出会えてよかった」
そのメモを、何度も開いては閉じた。
消すことも、上書きすることもできなかった。
それから三年。
僕は社会人になり、忙しい日々に追われていた。
新しい恋もあったけど、どこか心は空白のままだった。
そんなある日、機種変更のために古いスマホを整理していた。
懐かしいメモ帳を開いて、あのメッセージを見つけた瞬間──僕は息を呑んだ。
そこに、知らない一文が追記されていたのだ。
「わたしも、あなたに出会えてよかった」
指が止まった。
え?
誰が?
まるで彼女の文字のようだった。
でも、このスマホは誰にも貸していないし、同期もしていない。
まさか──そんな偶然あるわけがない。
驚きと動揺のまま、彼女の名前をSNSで検索した。
すると、共通の友人がタグ付けしていた。
結婚式の写真だった。
彼女は白いドレスを着て、幸せそうに笑っていた。
その笑顔に、あの頃の面影が重なる。
胸が締めつけられた。
でも、不思議と涙は出なかった。
むしろ、少しだけ救われた気がした。
──あの日の言葉は、きっと彼女にも届いていた。
どんな仕組みかなんてどうでもいい。
この言葉がつながった奇跡を、僕は信じたくなった。
その夜、新しいスマホのメモ帳を開いた。
「君の幸せが、今の僕の支えです」🌸
そして、もうひとつ追記した。
「ありがとう。君に出会えて、本当によかった」 📱🕊️🌸
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