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犬がくわえていた紙に、 たった一言だけ書いてあった。

迷い犬が導いた感謝の物語

犬が、紙をくわえて座っていた。

夜の公園のベンチで、まるで誰かを待つように。

その紙に書かれていた言葉は、たった一言だけだった。

夜の公園には、不思議な灯りがともる場所がある。
街灯の光が届かないベンチのそばに、白い犬が静かに座っている。
その姿を見かける人は少ないが、まるで誰かを待っているようだった。

少女の莉子がその犬と出会ったのは、夏の終わりのことだった。
学校帰りに気分を落としたまま歩いていたとき、ふと公園から微かな鳴き声が聞こえた。
声のする方に近づくと、白い犬がじっとこちらを見つめていた。

首輪はついていない。
毛並みは少し汚れてはいるが、目は澄んでいて優しい光を宿していた。
莉子がしゃがむと、犬は静かに近づき、鼻先で莉子の手のひらを押した。

「迷い犬……なの?」

犬は答えない。
ただ静かに、どこか困っているような目をして見上げていた。

そのとき、犬の口元に小さな紙片が見えた。
紙をそっと取ると、何度も折りたたまれたメモが現れ、震える字でこう書かれていた。

「ありがとう」

一言だけの手紙。
でも、その字は確かに誰かが想いを込めて書いたものだった。
莉子は誰が書いたのか気になり、迷い犬の飼い主を探すことにした。

莉子は自分のスマホで「手紙 ありがとう 短編」などと検索しながら、ふと以前読んだ
ひと言小説「香る手紙」💌✨という物語を思い出した。
言葉の向こうにある気持ちを想像するのが好きになったのは、その作品の影響かもしれないと、少しだけ胸が温かくなった。

次の日も、その次の日も、犬は夜になると同じ場所で待っていた。
まるで誰かの帰りを待つように動かず、ただ静かに座り続けた。
莉子はその隣に座り、少しずつ犬に話しかけるようになった。

「私もさ、最近いろいろあって……」
「誰にも言えなかったけど、ここなら話せる気がするんだ」

犬はただじっと耳を傾けるように座り、時折小さく尻尾を揺らした。
その温かさに、莉子の胸に張りつめていたものがゆっくりほどけていった。

数日後、莉子は紙片を交番に届けた。
すると、交番の警官は紙を見た瞬間に表情を曇らせた。

「これは、数か月前に亡くなったご老人の字だと思う。飼っていた犬が行方不明になっていてね」

莉子は息をのんだ。
犬の視線の先にある寂しげなベンチ。
そこは、老人が毎日散歩で座っていた場所だったらしい。

「この犬は……その方を探しているのかもしれない」

そう言われた瞬間、莉子の胸が締めつけられた。
犬は主人がいなくなったことを知らず、今も必死に探し続けている。
そして持ち歩いていた手紙は、おそらく老人が生前犬に向けて残したものだったのだろう。

莉子は、雨の日に届いた手紙の物語として読んだひと言小説「雨の手紙」の一場面をふと思い出した。
あの物語のように、この一言にも、言葉にならなかった想いがぎゅっと詰まっている気がした。

「ありがとう」
その一言に、どれだけの想いが込められていたのか。
莉子は紙片を胸に抱いた。

その夜、莉子はいつもの場所に向かった。
犬はやはりベンチの横に座っていた。
莉子が近づくと、犬は静かに顔を上げ、まるで「わかったの?」とでも言いたげに目を細めた。

「あなたの気持ち、きっと届いているよ」

莉子はそう言って、犬の頭を優しく撫でた。
犬は小さく鳴き、莉子の膝にそっと身体を預けた。

その日を境に、犬は少しずつ変わっていった。
ベンチで待つ時間が短くなり、莉子のあとをついてくることが増えた。
まるで、ようやく「探す旅」を終える決心がついたかのように。

ある夜、莉子が公園へ行くと、犬はいつものベンチにはいなかった。
胸がざわついたが、公園の出口の方で犬の姿を見つけた。
後ろには、温かい表情の家族が立っていた。

「この子、うちで預かりたいんです」
「老人の気持ちを知って、ほっとけなくて」

犬は莉子の方を見て、小さく一度だけ吠えた。
それは、新しい場所へ向かうための最後の挨拶のようだった。

莉子は静かに頷き、微笑んだ。

「今度は幸せになってね」

犬は家族のもとへ歩き出し、振り返ることなくその姿を夜の道に溶かしていった。

莉子は空を見上げた。
夜風が頬を撫で、心の奥に温かい灯りがともるようだった。
犬が運んできた一枚の手紙は、失ったものを嘆く言葉ではなかった。
誰かに向けた、最後の優しさだった。

「ありがとう」
その言葉は、莉子の胸の中でも確かに光を放っていた。

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もし、この犬のその後が少しでも気になったなら。

夜の公園を離れたあと、犬と莉子がどんな時間を過ごしたのか。

言葉にはならなかった続きを、noteに書いています。

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