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ひと言小説「消えた彼女」

「実在の影」

彼女が突然姿を消したのは、ちょうど春の嵐が過ぎ去った翌日のことだった。

いつも通りの朝を迎えたはずなのに、彼女だけが忽然と姿を消していた。

「どこに行ったんだ?」

何度も電話をかけ、メールを送り、友人たちにも尋ねたが、誰も彼女を見た者はいなかった。

数週間が過ぎても手がかりは何一つ見つからず、最終的には警察も「本人の意思で行方をくらましたのではないか」という結論を出した。
納得できないまま時間だけが過ぎ、彼女の存在が少しずつ記憶の中で薄れていった。

それでも心のどこかで諦めきれず、彼女が住んでいたアパートを訪れることにした。

しかし、そこには広がる更地と工事車両だけがあった。🏗️

“取り壊されたのか…。”

声に出すと、まるで彼女が最初から存在しなかったかのような感覚に襲われた。
周囲を見渡すと、彼女が好きだったパン屋も、よく一緒に歩いた公園も、すっかり変わっていた。

途方に暮れたまま帰宅し、古いアルバムを引っ張り出した。
そこには無邪気に笑う彼女の写真があった。📸✨

だが、不意に違和感を覚えた。

写真の彼女が、少しずつぼやけていく。

慌てて別の写真を見ても同じだった。どの写真も、彼女の姿だけが溶けるように消えかかっていた。

“なんでだ?”

呆然とする中、写真の裏に何か書かれているのに気がついた。


“私を忘れないで。”


彼女の字だった。
それが彼女からの最後のメッセージのように思えた。

その夜、彼女が最後に残した言葉が頭から離れなかった。

彼女は本当に存在していたのだろうか。
それとも、すべてが夢だったのだろうか。

そんなことを考えながら、アルバムを閉じた。

記憶の中にいる彼女の笑顔だけが、確かなものとして残っていた。🌸

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