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ひとこと小説「転校生の席」

あのぬくもりに、もう一度ふれる朝🌸

冬休みが明けた朝、教室の窓にはうっすらと結露が残っていた。
まだ少し眠たげな空気の中、僕はストーブの前で手をあたためながら、いつもの席へと向かう。

──隣の机が、きれいに片付けられていた。

そこにはずっと、七海が座っていた。
半年前の事故で、突然いなくなってしまった彼女。
その後、担任は席替えをせず、誰もその席に触れなかった。
机の上には、みんなで書いた寄せ書きと、彼女が最後に使っていた鉛筆が、そっと置かれていた。

でも今日、その机の上は空っぽだった。

「……片付けたんだ」
僕は思わずつぶやいた。
胸の奥が、静かにきしむ。

「なあ、今日転校生来るって知ってた?」
後ろから山田が声をかけてきた。

「うん……噂、聞いてた」
目を伏せたまま答える。

チャイムが鳴り、ドアが開く。

「おはよう。席につけー」

担任が教室に入ってきて、その後ろには、見慣れない黒髪の少女が立っていた。

「紹介する。今日からこのクラスに入る綾瀬ひかりさんだ。緊張してると思うけど、仲良くしてやってくれ」

綾瀬さんは軽く会釈して、少しだけ不安そうに笑った。

先生が指さしたのは──七海の席だった。

「そこが空いてるから、ひかり、そこに座って」

彼女はうなずいて歩き出すと、一瞬だけ机の上を見つめた。
まるで、そこに何かが置かれていたことを知っているかのように。
でも何も言わずに椅子を引き、そっと座った。

僕の隣に、新しいぬくもりが生まれた瞬間だった。

放課後。
帰り支度をしていた彼女が、ふいに話しかけてきた。

「ねえ……この席、不思議な感じがするの」

「……どういう意味?」

「すごく大切にされてたんだね、この席。
前に座ってた子、みんなにとって特別だったのが伝わってくる」😊

その言葉に、心がぎゅっと締めつけられた。
僕は、ただうなずいた。

「……俺にとっても、大事な人だったんだ」

窓の外には、夕暮れに染まった雪が静かに降り始めていた❄️

七海の思い出は、消えたわけじゃない。
この席を通して、ちゃんと誰かに受け取ってもらえた気がする。

それは、ほんの少しだけ前を向く勇気をくれた。
彼女が残してくれた温もりが、今もこの教室に生きている。

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