
それは、未来を繋ぐコード🔌
「すみません、充電器……貸してもらえませんか?」
その声に振り向いた瞬間、時間が歪んだ気がした。
彼女は不思議な雰囲気をまとっていた。
地味な服装に、どこか古びたスマホ。けれど目だけは、未来を見ているような光を放っていた。
「ありがとう。これで、あと少しだけ繋がれる」
そんな言葉を残して、彼女はベンチに座り、静かに空を見上げた。
それが、すべての始まりだった。🌌
彼女の名はユイ。
週に一度、同じ場所に現れては、少しだけ充電を頼んでくる。
次第に、ぼくはそれを待つようになった。
彼女の話す未来の話──空飛ぶ都市、音で記憶を再生する装置、そして「時空跳躍通信機」。
信じられないような話ばかりだったけれど、彼女の言葉には、嘘のにおいがなかった。
ある日、ぼくは思い切って聞いた。
「ユイって、もしかして……未来から来たの?」
彼女は笑って頷いた。
「私は、2157年から来た“通信補完者”なの。
未来に残された“感情の記録”を探して、いまを旅している」
そして彼女は、ぼくのスマホを優しく撫でながら言った。
「あなたと過ごした会話や、この充電の記録……全部、未来の人たちへの手紙になるの」📩
信じがたい話だった。
けれど、ユイと過ごす時間が、確かにぼくの心を満たしていく。
だが、終わりは突然やってきた。
「次に会ったとき、私はあなたのことを覚えていないかもしれない」
そう言って、ユイはいつものようにコードを手渡し、微笑んだ。
「未来では、記憶を“書き換えられる”の。だから、これが最後の記録かもしれない」
ぼくはその夜、ありったけの想いをこめて、自分の声を録音した。
「君が忘れても、ぼくは覚えてるよ」
翌週。
ユイは現れた。けれど──目の奥には、ぼくを知らない静けさがあった。
それでも彼女は、コードを差し出し、こう言った。
「なんだか、あなたの声が好きな気がする」
スマホのスピーカーが、ぼくの録音を再生する。
彼女は目を丸くした。
そして、泣いた。
「どうして……涙が止まらないの……」
そのとき、ふたりを繋いでいたコードが、ほんのりと光を放った。🔆
未来の記録には残らないかもしれない。
けれど、ここに確かに、ふたりの“今”があった。
──それが、恋という名の通信だった。
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