
最後に届いたのは、君の“声”でした📡💔
大学の研究室で、一緒に卒業制作に取り組んだ遥と航平。
彼らは、音響工学のゼミで“音で繋がる距離”というテーマに取り組んでいた。📡
航平は天才肌の研究者だった。
だが、昔から人とのコミュニケーションが苦手で、会話よりも波形やノイズの分析に喜びを感じるタイプだった。
一方の遥は、元気で朗らか。
誰とでもすぐ打ち解ける性格だったが、なぜか航平には最初から特別な親近感を覚えていた。
「このアンテナ、曲がってるけど直さないの?」
「……これは、俺の“耳”みたいなもんだから」
壊れかけた無線アンテナを、大事そうに鞄に忍ばせていた航平。
それは彼が高校時代に手作りしたもので、ノイズの中に“声”を見つける実験に何年も使っていたという。🎧
「“音”って、不思議だよね」
遥はある日、研究の帰り道に言った。
「何も言葉にしなくても、音で想いって伝わる」
「……たとえば?」
「たとえば、“好き”って音」
航平はうまく答えられなかった。
ただ、遥の声を録音し続けていた。
彼女の笑い声、ため息、そして沈黙さえも。🎙
卒業間近、遥は突然言った。
「私、東京の放送局に内定決まったの」
「おめでとう」
それだけ言って、航平は笑わなかった。
数日後、彼は姿を消した。
卒業式にも現れず、連絡もつかないまま。
研究室に残された荷物には、折れたアンテナと一枚のメモだけがあった。
そこには、「音は、心を越えることがある」と書かれていた。📻
季節は流れ、遥が社会人3年目を迎えた春。
実家の押し入れで、懐かしい段ボールを見つけた。
そこには、航平から卒業前に手渡された古いカセットテープが入っていた。
「“君の周波数”って書いてある……」
恐る恐る再生してみると、最初に流れたのはあの“折れたアンテナ”が受信したノイズ。
そして、途切れ途切れの声。
――…はるか…
――…す、き…
遥は、涙が止まらなかった。
無骨で不器用だった航平が、やっと届けてくれた“好き”の音。📡
彼の最後のメッセージが、ようやく遥の心に届いた。
「折れたアンテナ」
それは、不完全なままでも、誰かと心を繋げられる希望の象徴だった。
遥はカセットを胸に抱え、静かに微笑んだ。
――私も、好きだったよ。 風のない夕暮れ、壊れたアンテナが音もなく揺れていた。
だけどその先には、確かに想いが届いていた。
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