
「そこには、まだ知らないあなたがいた」
薄曇りの朝、私はふとカーテンの隙間から外を眺めた。
すると、窓の向こうに――見知らぬ“彼”が立っていた。📡
私の部屋は、マンションの最上階。
誰かが立てるような場所ではない。
驚いて目をこすったときには、もう彼の姿は消えていた。
「夢……だったのかな」
そう呟いて、私はその日もいつものように大学へ向かった。
けれど、それは“最初の出会い”だった。
次の日も、そのまた次の日も。
カーテンの隙間から、彼は現れた。
無表情で、じっとこちらを見つめていた。
まるで、誰かを確認するように。🌌
一週間が過ぎたある晩、私は決意して窓を全開にした。
風が吹き込むなか、声を放つ。
「あなたは、誰?」
すると空間が微かにゆらぎ、彼が姿を現した。
「…確認完了」
そう呟いた彼は、ゆっくりと微笑んだ。
「初めまして、ユナさん。僕は“ツバサ”」
「あなたの未来の恋人――の、記憶データです」💫
話によると、ツバサは300年後の研究機関によって保存されていた“記憶再現AI”。
とある技術実験の一環で、“過去の重要接触点”へと投影されたのだという。
「僕のオリジナル――本物のツバサは、未来のあなたに会って恋をしたんです」
「でも、事故で記憶を失ってしまった」
「だから僕は、彼に“あなたとの大切な思い出”を再インストールするために来た」
私は信じられず、でも涙があふれた。
理由のわからない、胸の痛みに。
その夜から、ツバサは私の部屋の中に姿を現すようになった。
一緒に朝食を囲み、映画を見て、未来の話を聞いた。
まるで恋人のような時間。
けれど、それはあくまで“記憶の写し”でしかなかった。🕊️
「今夜が最後だ」
ツバサは、そう言った。
「あなたの部屋で過ごしたこの日々は、彼の心の奥に届いたはず」
「記憶はもう転送された。あなたの未来へ」
「だから、僕は消える」
私は泣いた。
本物じゃなくても、彼に恋をしていた。
「忘れないで。カーテンの隙間から、もう一度だけ会いに来るから」
そう言って、彼は光に溶けた。📖
数年後。
私は、出張先の研究所で働いていた。
ある日、研究棟のガラスの向こうに“誰か”が立っていた。
カーテンの隙間から覗くように、こちらを見つめていた。
心臓が跳ねた。
ドアを開けたとき、彼はそこにいた。
「…初めまして。研究に協力させていただくことになりました、ツバサです」
私はそっと微笑んだ。
それは、運命という名の記憶が紡いだ再会だった。
――物語は、今度こそ現実の中で始まろうとしていた。🌠
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