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駅のロッカーで見つけた子犬がくれた優しい手紙の秘密

心をつなぐ小さな出会い

朝の通勤時間、改札の混雑を避けて脇の通路へ入ったときだった。
古びたロッカーの前で、小さな鳴き声が聞こえた。
足を止め、耳を澄ます。
間違いなく、誰かが助けを求めるような声だ。
ロッカーの扉をそっと押すと、鍵はかかっていなかった。
中にいたのは、掌に乗るほどの子犬だった。

震える身体を抱き上げると、足元に小さな封筒が落ちた。
拾い上げると、短い言葉が書かれていた。
「お願いします。」
それだけだった。

たった五文字なのに、そこに宿る切実さが胸に残った。
以前読んだ短編犬猫スマート首輪事件簿!笑える日常の明るい世界とは対照的な、その重さが静かにのしかかってくるようだった。
置き去りにするつもりだったのか、それとも誰かに託したかったのか。
子犬は不安そうにこちらを見上げ、しがみつくように服をつかんだ。

その日、会社へ向かう足は自然とゆっくりになった。
仕事のことよりも、この子をどうするべきかばかり考えていた。
届け出るのが正しいのだろう。
それでも、あの五文字が気にかかった。

同僚にだけ事情を話し、昼休みに駅へ戻ることにした。
もし育て主が探しているなら、張り紙の一つでもあるはずだ。
駅員に話すと、意外にも「心当たりがあるかもしれない」と言われた。

駅の近くには、小さなアパートが立ち並ぶ一角がある。
以前から、そこで小さな犬を連れた女性をよく見かけたらしい。
ただ、最近は見ないという。
その情報を頼りに、私は子犬を連れて歩き始めた。

アパートの前には、季節外れの花が一輪だけ咲いていた。
呼び鈴を押しても反応はない。
それでも扉の前に立っていると、隣の部屋から老人が顔を出した。

「その子、あの部屋の犬じゃないかい。」
老人の言葉に胸がざわついた。
事情を尋ねると、女性はしばらく前から体調を悪くし、身の回りの整理を進めていたらしい。
ペットの世話も難しくなり、引き取ってくれる人を探していた、と。

「でも、人に頼るのが苦手でね。」
老人の声は静かだった。
「最後の方は、散歩もままならなかった。だからこそ、その子を誰かに託したかったんだろうね。」

あの五文字の意味が少しだけ分かった気がした。
「お願いします。」
それは、苦しさの中で絞り出した精一杯の願いだったのかもしれない。

部屋の前で子犬をそっと降ろすと、扉を見つめて小さく鳴いた。
その声は、別れを惜しむようにも、前へ進もうとする決意のようにも聞こえた。
私は静かに膝をつき、子犬の頭を撫でた。

「大丈夫。ここからは一緒に考えよう。」
子犬は私の手に顔を寄せた。
その温かさが、答えを示してくれているようだった。

帰り道、駅のロッカーの前を通った。
朝の慌ただしさとは違い、夕暮れの光がロッカーの表面を柔らかく照らしている。
もう中に小さな命はいない。
でも私は、あの短い言葉と、そこに宿っていた想いを忘れないだろう。

家に戻ると、子犬は部屋の隅を慎重に歩き回り、やがて私の足元に座った。
まるで「ここを新しい場所にしてもいいですか」と尋ねるように。
私は笑って頷いた。

誰かの願いが、見知らぬ私につながった。
そしてその縁が、この小さな命を未来へつなぐ。
どこかで読んだサステナブル・ペットライフ 〜小さな命と、未来の約束〜に登場したペットたちの姿がふと頭をよぎり、この出会いもまた小さな約束の一つなのだと感じた。

その夜、封筒の紙を改めて手に取った。
しわが寄り、ところどころ薄れていたが、五文字は確かにそこに残っていた。
私はそっと机の引き出しにしまった。
この出会いを忘れないために。

子犬は丸まって眠っていた。
新しい場所での初めての夜なのに、不思議と落ち着いた表情をしていた。
その寝息を聞いていると、私の心も静かに整っていった。

誰かの願いを、誰かが受け取り、また誰かにつながっていく。
その連なりの中に、自分もそっと混ざることができたのだと思うと、胸の奥が温かくなった。

明日から、この子とどんな日々を過ごすのだろう。
考えるだけで、不安よりも希望のほうが大きかった。
駅のロッカーで始まった小さな物語は、これから少しずつ、新しい形を育てていく。

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ロッカーの前で始まった小さな物語の“その先”で、子犬と主人公がどんな日々を重ねていくのか。
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