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最後のバス停で待つ犬が教えてくれた優しい約束

静かな絆をつなぐ物語

夕方の商店街を抜けると、小さなバス停が現れる。
古びたベンチと色あせた時刻表が並ぶその場所に、一匹の犬がいつも座っている。
名前も首輪もないその犬は、地域の人から“ココ”と呼ばれ親しまれていた。

ココは、毎日決まった時間になるとバス停に姿を見せる。
まるで誰かを待っているかのように、道路の向こうへ視線を向けながら静かに座っているのだ。
雨の日も風の日も、その習慣は変わらなかった。

そんなココを、私は幼いころから見て育った。
学校帰り、ランドセルを揺らしながらココに声をかけると、尻尾を振って迎えてくれる。
そのたびに、このバス停の風景は、少し切ない恋を描いた短編『ひと言小説「バス停の片想い」』を思い出させるような静けさをまとって見えた。
けれどココの視線は、いつもすぐに道路の先へ戻っていく。
まるで大切な誰かを待っているようだった。

ある日、私は思い切って大人たちに聞いた。
「ココって、誰を待ってるの?」
返ってきたのは、少し曖昧な答えだった。
「昔の飼い主さんのことを待ってるんじゃないかって噂だよ。」
詳しい話をする人はいなかったが、その言葉だけで胸が少し締めつけられた。

中学生になった頃、私はそのバス停を通ることが減った。
部活や塾が忙しくなり、帰り道も変わってしまったからだ。
それでも、たまに通りがかった時、ココは変わらずベンチの横でじっと座っていた。
時間だけが流れ、季節が移り変わっても、その姿はそこにあり続けた。

動物が人の心を支える話といえば、『ひと言小説「猫の恩返し?」』のような不思議な優しさを持つ物語もある。
けれどココの物語は、もっと日常のすぐそばにある、小さな奇跡のようだった。

高校に進学した冬の日、私は久しぶりにバス停で立ち止まった。
雪が舞う夕方、ココはいつもの場所で道路の先を見つめていた。
その横顔は、以前より少しだけ年を重ねて見えた。

「ココ、まだ待ってるの?」
そうつぶやくと、ココはゆっくりと私の方を向き、そっと寄り添った。
体温が伝わり、息の白さが重なる。
言葉ではない何かが、胸の奥にすっと入ってくるようだった。

その頃、私は進路で悩んでいた。
やりたいことがわからず、周りの友達が次々と夢を語るたびに焦りだけが募っていた。
そんな話をココにしてみると、彼はただ静かにそばに座って聞いてくれた。
不思議と心は少し軽くなった。

ある日、商店街の店主からココの昔話を聞いた。
「ココの飼い主さんは若い男の人でね。仕事でこの街に来ていたらしいんだが、あるとき急に来られなくなったんだ。」
理由は誰も知らない。
ただ、ココはその日を境に毎日バス停で待つようになったという。

理由は語られないままでも、ココが“誰かを待っている”事実だけは揺らがなかった。
その一途さに触れるたび、私は胸が温かくなると同時に、少し痛くもあった。

大学進学で街を離れる前日、私はどうしてもココに伝えたいことがあった。
夕暮れのバス停で、ココはいつも通りベンチの横に座っていた。

「私ね、これから街を出るの。しばらく会えなくなると思う。」

ココはゆっくりと立ち上がり、近づいて私の手を舐めた。
その仕草に涙がにじむ。

「ココはすごいよ。こんなに長い間、同じ人を待ち続けて。私も、誰かを信じる強さを持てる人になりたい。」

ココは道路の先を一度見つめ、そのあと私を見上げた。
まるで「大丈夫だよ」と言ってくれているようだった。

春、私は新しい生活に慣れながらも、時折あのバス停を思い出した。
忙しさに流されそうなとき、ココの静かな背中が胸に浮かぶ。
“待ち続けること”は、ただの習慣ではなく、誰かを信じる力なのだと気づかされた。

夏休みに街へ戻った時、私は真っ先にバス停へ向かった。
そこには、以前と変わらず道路の先を見るココの姿があった。
ただ、それまでとは違う出来事が起きた。

一本のバスが停まり、扉が開いた。
降りてきたのは青年風の男性。
ココは驚いたように目を見開き、次の瞬間、全力で駆けだした。

その光景を見た瞬間、私は確信した。
ココが待っていたのは、この人なのだ。

男性はしゃがみ込み、ココをしっかりと抱きしめた。
「ただいま。遅くなってごめんな。」

ココは声を上げるように何度も尻尾を振りながら、その胸に顔をうずめた。
その姿に、私の胸も熱くなる。

ようやく果たされた再会を見届けながら、私はそっとバス停を後にした。
ココが教えてくれた“待つ強さ”は、これからも私の中で灯り続けていく。

あの日見た夕暮れのバス停と、一匹の犬の背中を思い出すたびに、誰かを信じて待つことの優しさをもう一度思い出せる気がした。

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