
「宛名のない手紙」
ポストを開けると、一通の手紙が入っていた📮
差出人の名を見て、懐かしい気持ちが込み上げる。
田舎に残った友人からだった。
久しぶりに届いた便りには、近況とともに、こんな一文が添えられていた。
「最近、あの人が帰ってきたよ」
——あの人?
文面の先を追うと、そこに書かれていた名前は、忘れられない初恋の人だった。
不意に、遠い夏の日の記憶が蘇る🌿
川沿いの土手を並んで歩いたこと、ひぐらしの鳴く帰り道、ぎこちなく交わした言葉。
けれど、彼は進学とともに都会へ出ていき、それきりになった。
「いつか帰るよ」と言いながら、連絡も途絶えたままだった。
手紙を握る手に、少しだけ力がこもる。
もし今、あの町に行けば、彼とまた会えるのだろうか。
でも、同じ気持ちでいてくれるとは限らない。
迷いながらも、封筒を裏返すと、もう一枚、小さな紙片が入っていた。
そこには——
「元気?」
それだけが、彼の字で綴られていた✉️
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