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ひと言小説「消えた面影」

「消えた約束」

 冬の冷たい風が吹き抜ける駅前広場で、彼女はじっと立っていた。
手の中には一枚の小さなメモ。
「ここで会おう」とだけ書かれた、何度も折り返された紙が、指の間で少し湿っていた。

 その約束を交わしたのがいつだったのか、もう覚えていない。
ただ、誰かがそう言ってくれたことだけは確かだった。
いつかの夜、涙を拭うように優しい声で。

 広場の時計が、何度も同じ音を刻む。
周りの人々が足早に通り過ぎていく中、彼女だけがその場から動けなかった。
足元に広がる影は、次第に伸び、そして薄れていく。

 待ち続けるうちに、ふと疑問が浮かんだ。
「誰を待っているんだっけ?」🤔
相手の名前も、顔も、何も思い出せない。
その声すら、遠い記憶の中に埋もれていく。

 それでも、心のどこかで信じていた。
「ここで会おう」という言葉が、何かを変えるきっかけになると。

 最後の電車が発車する音が響く。
駅前広場に残るのは、静寂と彼女だけ。
手の中のメモを見つめた後、彼女はゆっくりとそれをポケットにしまった。

 振り返って歩き出す彼女の後ろ姿は、どこか軽くなっているようだった。✨
記憶の中の約束は消えてしまったけれど、その場所に立ち続けたことが、彼女にとって何か意味を持ったのかもしれない。

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