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交際6日で強制退場になった僕が知った恋愛オーディションの裏側

■ 仮採用から始まった恋

僕はその日まで、恋愛に「仮採用」が存在するなんて知りませんでした。
会社の面接ならわかる。
試用期間も、評価シートも、締め切りもある。
でも恋愛にまで期限が付くとは思わないじゃないですか。

彼女と出会ったのは、軽い気持ちで入れたマッチングアプリでした。
期待値はかなり低め。
「今日も通知ゼロで平和だな」と思っていたある夜、突然メッセージが届いたのです。

「プロフィールの“カレーは飲み物”が刺さりました」

刺さったのは、むしろ僕のほうでした。
笑いのツボが同じ人に悪い人はいない。
これは人生の鉄則です。
この時点で、僕の頭の中では結婚式のBGMが流れ始めていました。
早い。
早すぎる。

■ 幸福の短距離走

やり取りは驚くほどスムーズでした。
返事が速い。
ノリが合う。
突っ込みが的確。
会ったこともないのに、もう隣に座っている気がする。
恋って、だいたい錯覚です。

勢いで「付き合おう」となり、彼女も「うん」と言ってくれました。
その瞬間、僕はスマホを見ながら深く頷きました。
誰にも見られていないのに、深く。

そこからの6日間は、幸福の短距離走でした。
朝は「おはよう」で始まり、夜は「おやすみ」で終わる。
その間に挟まるどうでもいい報告が、なぜか宝物に見えるのです。

「コンビニでグミ買った」
「今日の上司、眉毛だけ元気」

そんな内容で笑い合えるだけで、世界が少し明るくなる。

僕は次の週末に会う場所を調べました。
カフェの席の配置まで想像しました。
「ここは窓際にしよう」とか、なぜか一人で決めていました。
怖い。

■ 恋愛オーディションの存在を知る夜

そして迎えた6日目の夜。
スマホが鳴りました。
彼女からです。
(来たな、愛の最新版)
そう思って開いた僕は、そこで初めて「恋愛オーディション」という世界の存在を知りました。

「話したいことがあります」
この一文、恋愛界の天気予報でいうと“発達した低気圧”。
嫌な予感は、だいたい当たります。

「実は、少し考えたいんです」
考える。
何を。
僕はすでにカフェとケーキの候補を決めているのに。

混乱する僕に、彼女は続けました。

「最初に言ってなくてごめん。同時に何人かとやり取りしてて、会ってみて決めようと思ってたの」

なるほど。
つまり僕は、彼氏ではなく候補者。
交際ではなく選考。
恋愛ではなくオーディション。
僕の6日間は、告白ではなくエントリーだったわけです。
しかも本人だけ知らないタイプのエントリー。
一番つらい。

「あなたは本当にいい人。でも、一緒にいるところを想像した時に“しっくり”が来なかった」

しっくり。
この言葉、便利すぎませんか。
説明ゼロで全否定できる。
つまり僕は、額縁にも入れてもらえない枠外の存在です。

■ やさしさの刃と返却期限

そのあと彼女は、やけに丁寧でした。

「もっと合う人がいると思う」
「短い間だったけどありがとう」
「ごめんね」

丁寧な文章ほど、心に刺さることがあります。
やさしさの刃、というやつです。

読んだ瞬間、胸の奥で何かが静かに音を立てました。
まるで、図書館で借りていた本に「返却期限が過ぎています」と書かれた紙を挟まれたときのような感覚でした。

もう少し手元に置いておきたかったのに、容赦なく終わりを突きつけられる、あの感じ。
恋にも、こんなふうに見えない期限があるのかもしれません。
たった6日で、感情にまで返却期限が来るなんて思いもしなかった。

もしあなたが、静かに終わりを告げられるあの瞬間の温度を知っているなら——きっとひとこと小説「返却期限」という物語にも覚えがあるはずです。

そして数分後、画面に表示されたのは決定的な文章でした。

「このユーザーとはメッセージを送れません」

■ 消えたものは、なぜか大きく見える

翌日、僕は一人で街を歩いていました。
ふとスマホを開く。
そこにはもう、昨日まで続いていた会話はありません。

通知を待っていた日々も、笑い合ったメッセージも、跡形もなく消えている。
データは削除されただけなのに、思い出まで消えたような錯覚に陥ります。

メッセージって不思議です。
あるときはただの文字列なのに、なくなった瞬間、急に現実味がなくなる。
最初から何もなかったみたいに。

でも人は、その「消えたあと」に本当の重さを知るのでしょう。
画面から会話が消えたとき、ふと頭をよぎりました。

もし、最後にもう一通だけメッセージが残っていたら、何が書かれていたのだろう。
読まずに終わった言葉の中に、本当の気持ちがあったのではないか。
そんなことを考えてしまうのは、きっと僕だけではないはずです。

言葉は届かなかった瞬間よりも、「もう届かない」と知った瞬間のほうが、ずっと重くなる。
まるで、どこかに置き去りにされたままの——ひと言小説「消えたメッセージ」のように。

■ 恋愛は選考じゃない

それでも、不思議と怒りは湧きませんでした。
むしろ少しだけ笑えてきたのです。
だって僕は6日間、本気で「交際中」だと思っていた。
相手は「選考中」。
このズレ、もはやコントです。

予約しかけていたカフェに入り、パンケーキを頼みました。
甘いはずなのに、なぜか少ししょっぱい。
たぶん、心の味です。

そして僕は、ようやく気づきました。
恋愛って、選ばれることじゃない。
選び合うことなんだと。

どちらかだけが審査員で、どちらかだけが受験者の関係は、きっと長く続かない。

次に恋をするなら、最初から本選に出たい。
……いや、本選って言っている時点で怖いですが。

それでも人は、懲りずにまた恋をします。
通知が鳴れば、心は少し跳ねる。

ただ一つ願うなら——
次は募集要項だけ、先に教えてほしい。です。

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