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ひとこと小説「心音レコード」

イヤホン越しに聞こえた、“好き”の音🎧💓


――このレコード、君の心音が入ってるんだよ。

大学の卒業式から数日後、未帆(みほ)は大学近くの中古レコード店に立ち寄った。

何となく引かれるように入った店で、手に取った一枚のレコード。

手書きで「SHION’S HEART」と書かれたラベルに、指先が止まった。

🎧
それは、大学の音響学科で出会った志音(しおん)が卒業制作で作った作品だった。

当時の彼は無口で、録音機材を抱えていつも一人で歩いていた。

未帆は軽音楽部のボーカル。

たまたま音楽スタジオで出会ったとき、志音は言った。

「このマイク、君の声には合ってない」
「え?」
「こっちのダイナミックマイクのほうが、君の息遣いが伝わると思う」

それが、ふたりの最初の会話だった。🎶

それから、彼はよく未帆の練習に付き合ってくれるようになった。

無口だけど、音には誰よりも敏感な彼の存在が、次第に未帆の中で大きくなっていった。

ある日、志音が録った“環境音”を聴かせてくれた。

風の音、電車の音、木々のざわめき。

そして最後に、心音。

「……これ、誰の?」
「内緒」
「……もしかして」
「……君のだよ」

志音は、そう小さくつぶやいた。🌸

卒業が近づく頃、未帆は志音に言った。

「また、歌いたくなったら……隣にいてくれる?」

「うん」
その答えを、未帆は何度も思い出した。

でも卒業式の翌日、彼はどこかに消えてしまった。📀

そして今、偶然見つけたこのレコード。

店主に尋ねると、数年前に地元のインディーズレーベルが、志音の作品を100枚だけ限定でプレスしたのだという。

「そのときちょっと話題になってね。天才大学生の“心音レコード”って」

思わず涙がこぼれた。

志音は、ちゃんと形にしていたのだ。

自分の鼓動と、想いを。

レコードの裏には、手書きでこう綴られていた。

――“鼓動は、今でも君に向かって鳴っている。”

未帆はそっと針を落とした。

スピーカーから響いたのは、たしかに自分の鼓動。

でも、そこにはもう一つの鼓動が重なっていた。

「志音……今も、聴こえてるよ」

未帆はそうつぶやいて、涙を拭った。

部屋の中に、やさしい音が満ちていく。

“心音レコード”――それは、二人の想いが重なった、たった一枚のラブソングだった。

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