
「さよならの先に、もう一度灯る光」
深夜、部屋の隅にある小さな読書灯だけが、静かに灯っていた。
彼と私は、その淡い光の下でよく並んで本を読んでいた📖
ふたりの時間は静かで、けれど確かに温かかった。
「どっちが先に泣くか、勝負だぞ」
恋愛小説を読むたびに、そう茶化して笑った彼の横顔が、今でも脳裏に焼きついている。🌙
けれど、彼はもういない。
半年前、事故で急にこの世を去った。
それでも、私は彼のいた部屋で、同じ本を読み続けた。
読書灯をつけ、彼の影を感じながら。
ある晩、ふと気づいた。
隣の椅子の上に、開かれたページがあった。
私が読み進めたはずの場所よりも、先の章だった。🕯️
「……まさか」
心臓が高鳴る。
ページの端には、見慣れた走り書き。
彼の文字で、こう書かれていた。
――君が読み終える頃、また会いに行くよ。
信じたくても、信じられなかった。
それでも私は、彼の残した本をすべて読み始めた。📚
そして今夜。
最後のページにたどり着いたとき、読書灯の光がふっと揺れた。
次の瞬間、目の前の椅子に“彼”が座っていた。
「……久しぶり」
変わらない笑顔で、彼は言った。
けれどその姿は、どこか透けていた。
「一晩だけ、戻ってこれたんだ」🌌
「ありがとう。君が全部、読んでくれたから」
「僕の想い、ちゃんと届いたよ」
私は泣きながら頷いた。
彼もまた、静かに涙をこぼしていた。
「最後に、君の声で読んでほしい」
彼の手が、本の最初のページを開いた。
私は声を震わせながら、ふたりの物語を読み始めた。
やがて彼の輪郭は淡くなり、光に溶けていった。
でも、悲しみよりも、不思議なあたたかさに包まれていた。🌠
読書灯の光が、夜明けと共に消えた。
椅子には、閉じられた本と、彼の温もりが残っていた。
私はそっと手を重ね、微笑んだ。
「また、読もうね」
その言葉に、どこかで彼が頷いてくれたような気がした。
ふたりの読書灯は、今も静かに部屋を照らしている。
――もう一度、いつか会える日を信じて。
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