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漂流する万国博覧会(Expoノマド)

閉幕後に咲く恋の灯

万博が終わったあと、夢の島には風だけが残った。🌬️
かつて人で埋め尽くされたパビリオンの跡地には、カラフルな幕がゆらりと揺れている。
その下を歩く人は、もうほとんどいない。

悠真は、静まり返った会場をゆっくりと歩いていた。
彼は元・ボランティアスタッフ。
半年間、世界中の来場者に笑顔を向け続けたその場所に、何かを置き忘れた気がしていた。🌏

彼の手には、一枚のチケットが握られている。
「再入場特別券」と書かれた、もう効力を失った紙切れ。
けれど、それは彼にとって思い出の証だった。

あの日、同じチケットを手にしていた女性――メイ。
メイは台湾からの留学生で、ボランティア通訳として同じチームにいた。
日本語がまだたどたどしかったが、笑うと周囲の空気が柔らかくなるような人だった。😊

「終わったら、またここで会おうね」
そう言って、メイは最後の日にそのチケットを半分に裂いた。
半分を彼に、半分を自分に。

それから3ヶ月。
悠真はメイに連絡できずにいた。
SNSのアカウントも消えていて、連絡先も途切れていた。
だからこそ、彼はこの跡地に来たのだ。
約束が、まだ果たされていないような気がして。⛅️

会場の中心、かつて「未来の塔」がそびえていた場所。
その足元に、悠真は立ち止まった。
風が吹き抜け、錆びかけた旗がぱたぱたと鳴る。

ふと、遠くでカメラのシャッター音がした。
その音に振り向くと、そこに――彼女がいた。📸

メイだった。
髪が少し伸び、白いマフラーを巻いていた。
一瞬、幻かと思った。
でも、次の瞬間には彼女が笑っていた。

「やっと、見つけた」

悠真の胸が熱くなる。
「……どうして、ここに?」
「約束、したでしょ?」
メイはそう言って、ポケットから半分のチケットを取り出した。

風が二人の間を通り抜ける。🌬️
その紙片はまるで生き物のように、空に舞い上がった。

彼らは並んで歩いた。
人気のない会場を、ゆっくりと。
かつて音楽と人のざわめきに満ちていた道を。🎶

「台湾に戻ったんじゃ?」
「戻ったよ。でもね……また、来たかったの」
メイの声は少し震えていた。
「ここでの毎日、私にとって宝物だったから。
あの時、あなたが撮ってくれた写真、今も全部スマホにあるんだよ」

悠真は照れくさそうに笑った。
「僕も。君が撮ってくれたやつ、見返してた」

二人の間に、静かな時間が流れた。
夕陽が海に沈むころ、光が金色に変わる。✨

「ねぇ」
メイが立ち止まった。
「この跡地、来年からまた何かの会場になるんだって」
「そうみたいだね。再開発計画が動くらしい」
「そっか……。でも、ちょっと寂しいね」
「うん。でも、場所が変わっても、想いは残るよ」

メイは優しく微笑んだ。
ふと彼の目に、展示会で見た「万博と記憶の庭──いのちを照らす約束」という言葉がよみがえる。
人の想いも、あの庭の光のように、消えずに残るのかもしれない。

メイはマフラーを整えながら言った。
「このマフラーね、あなたが落としたものを拾ったんだよ」
悠真は驚いた。
あの時、会場で失くしたものだ。
まるで二人の縁を結ぶ**赤い糸**のように、再び結ばれた気がした。

夜が近づく。
二人は展望デッキへと上がった。
街の灯りが滲み、風の中に少し冷たさが混じる。

「ねぇ、夕焼けって不思議だね」
「うん。終わりなのに、始まりみたいで」
「私ね、今日の空を見てて思い出したんだ。
あなたと過ごした時間の光が、今も心に残ってるの」
彼の胸に、あの日の**夕焼けの約束**が甦る。

メイは空を見上げた。
そこには無数の星が輝いている。🌠
「流れ星、見える?」
「見えた。願いごと、した?」
「うん。もう一度、あなたに会えますように……って」
「それ、もう叶ってるよ」
「ふふ、そうだね」

その瞬間、二人の心の中に**星空の告白**のような静かな光がともった。
言葉ではなく、視線で通じ合う。

「ねぇ、また会おうね。今度は、どこか旅先で」
「漂流する博覧会、か」
「うん、次のExpoは、私たちの心の中で続いてるんだよ」

風がまた吹いた。
彼女のマフラーがひらりと宙を舞う。
悠真はそっとそれを掴み、返した。
「もしまた失くしたら、そのときも探しに行く。まるで**渡せなかった切符**みたいにね」

メイは笑い、頷いた。
「じゃあ、これは約束のしるしね」

ふたりは夜の空に手を伸ばした。
交わる指先が、遠くの光よりも温かかった。

万博の灯はもう消えたけれど、
その跡地に、新しい灯がともった。💫

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