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60秒で涙が止まらない話 #3 父の弁当

最後の手作り

「明日から、お前の弁当作るぞ」

夕食の席で、父が突然そう言った🍱
母と俺は驚いて顔を見合わせた

父は仕事で忙しく、ほとんど家にいなかった
家で食事を共にすることも少なかったのに、いきなり弁当を作ると言い出したのだ

「どうしたの?急に」
母が笑いながら尋ねると、父は少し照れくさそうに頭をかいた

「たまには、父親らしいことをしようと思ってな」

翌朝、台所から不慣れな包丁の音が聞こえた🔪
仕事に行く前の時間を削って、父はぎこちない手つきで弁当を作っていた

昼休み、弁当の蓋を開けると、形の崩れた卵焼きと、少し焦げたウインナーが入っていた
ご飯の上には、不器用に握られたおにぎりが三つ

「お前の好きな梅干し、ちゃんと入れといたぞ」

そんな父の声が聞こえてくるようで、思わず笑った

「うまいよ」

そう言いながら、箸を動かした
決して上手とは言えない味だったけれど、これまで食べたどの弁当よりも温かかった

しかし、その夜——

父は突然倒れ、救急車で運ばれた🚑

病院の廊下で、母が震える手で医師の話を聞いていた
重い病気を隠していたことを、俺たちはそのとき初めて知った

「もっと早く気づいていれば……」

何度もそう思ったけれど、父はいつものように笑い、何も言わなかった

二度と、父の弁当を食べることはなかった

葬儀が終わった後、冷蔵庫を開けると、小さな紙切れが目に入った

『次はもっと上手く作るからな』

その横には、新しい弁当箱が置かれていた

思わず、それを握りしめた
次はもうないのに——

目の前が滲んで、文字がぼやける

父が最後に残してくれた、不器用だけれど温かい愛💧

俺は、あの日食べた弁当の味を、きっと一生忘れない

——ありがとう、親父

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