
父が遺したもの
ガレージの奥に、埃をかぶったダンボールが積まれていた🚲
父が亡くなってから、母と二人で整理を進めていたが、奥の大きな箱には手をつけていなかった
「これ、何だろう?」
ふと気になり、箱を開ける
すると、中から真新しい自転車が姿を現した
——黒いフレームに、ピカピカの銀色のベル
タイヤのゴムも弾力を失っていない
不思議だった
うちにはそんな余裕はなかったはずだ
「お母さん、これ……」
母はそれを見ると、そっと目を伏せ、静かに言った
「お父さんが、あんたのために買ってたのよ」
思わず息を呑んだ
「でもね、渡せなかったの」
母は目を潤ませながら続けた
「家計が苦しくて……先送りにしているうちに、お父さん、病気が悪化しちゃって……」
父は最後まで言わなかった
それでも、ここに残されている
俺のために買ってくれた新品の自転車が
思い出す
子供の頃、友達が自転車に乗る中、俺はずっと走っていた🏃
「欲しい」と言えなかった
でも、父はちゃんと分かっていたんだ
涙が止まらなかった
父が最期まで、俺のことを思ってくれていた証が、ここにあった
そっとベルを鳴らす
乾いた音が、ガレージの奥に響いた🔔
——まるで、父の声が届いたような気がした
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