猫たちが選んだ孤島の真実
海の色は、まるで深い夢のように静かだった。
「おかしいな……GPSがまったく反応しない」
⛵️小型ヨットの操縦席で、海洋写真家の**結衣（ゆい）**は眉をひそめた。
取材予定の島は、どんな地図にも載っていなかった。
だが、海上に漂う無数の猫の足跡のような影が、彼女を導くように続いていた。🐾
船を進めるうち、霧が立ち込め、波がぴたりと止まった。
霧の向こうに、緑濃い島影が見えた。
「……島？ こんな場所に？」
上陸すると、そこは奇妙なほど静まり返っていた。
人の気配はなく、代わりに――猫がいた。
黒猫が道を横切り、白猫が石垣の上からじっと見つめてくる。
灰色の長毛猫が近寄ってきて、結衣の足にすり寄った。
「こんにちは……誰かの飼い猫？」
だが首輪はどの猫にもなかった。
島全体が、まるで猫たちに支配されているようだった。🐈
結衣は持参したカメラを構え、島の記録を始めた。📸
海岸には朽ちた船の残骸、崩れた灯台、そして誰かが書き残した古い看板があった。
そこには「ネコ島・立入禁止」と掠れた文字で書かれていた。
潮の匂いに混じって、胸の奥で疼くものがある。
それは、かつて撮影した海辺の写真の記憶を思い出させた。🌊
夜になると、不思議な鳴き声があちこちから聞こえてきた。
「ニャア……ニャアア……」
風が音を運び、まるで島全体が呼吸しているように感じた。
焚き火の前で眠りにつこうとした瞬間、足元に小さな鈴が転がってきた。🔔
拾い上げると、鈴には「ミナト」と刻まれていた。
結衣の胸に冷たいものが走る。
――ミナト。それは彼女が10年前、海難事故で失った弟の名前だった。
あの事故の夜、ふたりは「またここで会おう」と言い合った。
それは、まるで物語の約束の場所でと同じように、果たされぬ約束のままだった。🌆
🌙翌朝。
結衣は島の奥へと足を進めた。
木漏れ日の中、古びた祠の前で猫たちが円を描くように座っていた。
中央には、白い猫がいた。
その瞳は、人間のような深い光を宿していた。
「お姉ちゃん……」
声がした。
振り返っても誰もいない。
だが白猫の唇が、かすかに動いていた。
「ぼく、ここにいるよ」
⚡️全身の血が逆流するような感覚。
結衣は震える手でカメラを落とした。
「ミナト……？ どうして……」
白猫は立ち上がり、ゆっくりと祠の奥へ歩き出した。
彼女は無意識のうちにその後を追った。🐾
祠の中は海の匂いがした。
そして奥に広がっていたのは、巨大な水鏡のような湖だった。
湖面に映るのは空ではなく、沈んだ船と、人々の姿。
「ここは、帰れなかった魂の浜なんだ」🐚
白猫――ミナトの声が、結衣の心に直接響いた。
祠の入口には、潮で錆びた南京錠と、掌にすっぽり収まる古びた鍵が置かれていた。🔑
それを拾い上げた瞬間、湖面に小さな波紋が広がり、光が弾けた。
結衣は涙をこぼした。
「私、ずっと……あなたを探してたの」
白猫は小さく鳴いて、彼女の頬にすり寄った。
「もう大丈夫。お姉ちゃんが笑えるように、僕はこの島にいる」
潮が満ち引きするたび耳元に残響するのは、消えるはずのない記憶の声だった。💬
🌅夜が明け、潮が引いていく。
猫たちは波打ち際に集まり、静かに見送るように鳴いた。
白猫の姿は、朝の光の中に溶けていった。
結衣は浜辺に立ち、海を見つめた。
潮風が彼女の髪を撫で、鈴が小さく鳴った。🔔
ふと、路地裏の隅で見かけた猫がこちらを見て微笑んだように見えた。
その姿は、まるで猫の恩返し？のワンシーンのようだった。😺
数日後、彼女のブログには一枚の写真が投稿された。
タイトルは「漂流ネコ島」。
そこには、無数の猫が夕陽の海を見つめる幻想的な風景が映っていた。
その写真の中に、かすかに弟の笑顔が重なって見えた気がした。
「ありがとう……ミナト」
彼女は静かにカメラを閉じ、波の音に耳を澄ませた。📸
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