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ひと言小説「忘却の手紙」

「最後の言葉」

机の上に広げたノートには、一通の手紙が書きかけのまま置かれていた。🌌

記憶をたどっても、なぜ書いたのか、誰に宛てたのか思い出せない。
文字は淡くかすれているのに、最後の一行だけは不思議なくらい鮮明だった。

「ごめんなさい」

この言葉だけが、赤いペンで力強く記されている。
それがどんな思いで書かれたのか、自分でも分からない。

ノートを閉じると、ふと窓の外で遊ぶ子どもたちの声が聞こえた。🏖️
その無邪気な笑い声に、胸の奥がチクリと痛む。

もしかしたら、これは大切な友人に宛てたものだったのかもしれない。
それとも、もう二度と会えないあの人へのものだったのか。

思い出せない記憶の断片が、ただ心に影を落とす。

机の引き出しを開けると、そこには古い写真が一枚。
そこには笑顔で写る自分と、隣で微笑む彼女の姿があった。

“どうしてこの写真をしまっていたんだろう?” そんな疑問が頭をよぎった瞬間、手紙を書いていた理由がふと脳裏によみがえった。

でも、いまさらその言葉を届けることはできない。
写真の彼女は、もう遠い場所にいるから。

それでも、最後に綴った「ごめんなさい」だけは、胸の中で何度も反響している。
まるで、何かを取り戻そうとするかのように。

曖昧な記憶の中で、ただ一つだけ確かなのは、この手紙に込めた思いが自分にとって本当に大切だったこと。 そして、それがもう二度と届かないものだという現実。🌟

写真をそっと引き出しに戻し、ノートを閉じる。
もう一度、あの時の気持ちを思い出せる日は来るのだろうか。

ただ、今はこの手紙を見つめながら、静かに目を閉じるしかなかった。

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