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【ぬくもりリレー】マフラーがつなぐ、奇跡の街角

―落としたマフラーが恋を運んだ―

朝の駅前は、冷たい空気に包まれていた。
通勤ラッシュの人々はマフラーを巻き、コーヒー片手に足早に歩く。
その中で、一人の青年・海斗(かいと)は焦っていた。

「やばい、また寝坊した…!」

家を飛び出した拍子に、マフラーをどこかで落としてしまった。
お気に入りの祖母の手編みのマフラーだ。
気づいたときには、もう電車の扉が閉まっていた。

その頃、同じ駅前を歩いていた女性・葵(あおい)は、ベンチの下に落ちていたマフラーを見つけた。
「…誰かの忘れ物かな?」
触れると、ほんのり温かい。
まるで“まだ持ち主の体温が残っている”ようだった。

葵は、駅前の掲示板アプリに写真を投稿した。
「このマフラー、誰かの落とし物です。とても優しい色をしていました。」

その投稿はなぜか拡散され、数時間後には“#ぬくもりリレー”というタグが生まれた。
「落とし物を拾ったら次の誰かに優しさを届けよう」というムーブメントだ。

やがて、街の人々が自発的に行動を始めた。
電車で席を譲った人が「ぬくもりリレー中です」とポスト。
お菓子を多めに買って隣人に渡す人も、「リレーに参加中」と笑顔でタグをつける。

SNSでは、次第に「ぬくもりバトンを受け取った!」という投稿が増えた。
知らない誰かの優しさが、知らない誰かの笑顔を作る。
街がほんの少しだけ、温かくなった。

一方、海斗は仕事の帰り道、スマホを見て驚いた。
#ぬくもりリレー のトレンド入り。
画面に映るマフラーの写真は、まさしく祖母の手編みのものだった。

「これ、俺のだ…!」

葵の投稿をたどってDMを送り、二人は駅前で待ち合わせをすることになった。

夕暮れ、再び同じ場所。
葵はマフラーを手にして立っていた。
「これ、あなたのですよね?」
「はい。拾ってくださって、ありがとうございます。」

その瞬間、冷たい風が吹き抜けた。
葵の髪が揺れ、海斗は思わず言った。
「よかったら、半分巻きます?」

「え?」

「いや、あの、寒いですし!」

二人は顔を見合わせて笑った。
そのマフラーは、祖母の編んだ糸だけでなく、偶然と優しさの糸でも結ばれていた。

その日から、二人はときどき連絡を取るようになった。
カフェでココアを飲んだり、仕事の愚痴を言い合ったり。
そして季節がめぐる頃、二人は一緒に祖母の家を訪れた。

祖母はマフラーを見て笑った。
「まぁ、二人で巻くなら編み甲斐があるわねぇ」

葵は少し照れながら言った。
「これ、私にも少し“ぬくもり”が移っちゃいました。」

祖母は笑ってうなずいた。
「ぬくもりってね、分けても減らないのよ。増えるの。」

やがて、この“ぬくもりリレー”は街全体のイベントに発展した。
落とし物、譲り合い、笑顔の写真、そして「ありがとう」の声。
それぞれが見えないマフラーでつながっていった。

SNSでは「#ぬくもりリレー全国版」が生まれ、他の地域にも広がり始める。
葵と海斗は運営チームの一員として活動するようになった。

「ねぇ、次はどんなリレーにする?」
「うーん…“あったかい缶コーヒー渡しリレー”とか?」
「それ、ちょっと笑えるけど、いいかも!」

彼らの小さな行動が、少しずつ世界を変えていった。

数年後、冬。
二人は結婚式を挙げた。
ゲストの手には、それぞれ小さな手編みのマフラーが。
式の最後、司会者が言った。

「新郎新婦からのリレーです。どうぞ、次の誰かに“ぬくもり”を渡してください。」

その瞬間、会場の笑顔が波のように広がった。

そして今も、どこかの町で“ぬくもりリレー”は続いている。
落としたマフラーが、知らない誰かを笑顔にしているかもしれない。
それは目に見えないけれど、確かに存在する。
あの日、葵が拾い上げた一本の糸のように。

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