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バレンタインに渡さないと決めた静かな選択

バレンタイン当日、私は包み紙を買わなかった。
渡さないと決めた、その判断に後悔はなかった。
それは逃げではなく、自分を守るための選択だった。

二月の朝は、通勤電車の窓に白い息を映して始まる。
車内広告は甘い色で満ち、駅の売店は箱とリボンで忙しそうだった。
私はその流れから一歩だけ距離を取り、いつもより軽い足取りでホームを歩いた。
渡さない。

その決断は、前夜に突然ひらめいたわけではない。
去年の春から続く、ささやかな違和感の積み重ねの末に辿り着いた答えだった。

職場の彼は優しい。
雑談の相槌が上手で、困っている人を見過ごさない。
だから私は、去年、気持ちを包みにして渡した。
あの時の返事は丁寧で、感謝も十分だった。

ただ、その後に続くものは何もなかった。
約束は生まれず、関係は名前を持たないまま、穏やかに停滞した。
停滞は、時に安心を装う。
この距離なら傷つかない、と心が勘違いするからだ。

けれど、勘違いは長く続かない。
小さな期待が、日々の雑音に混ざって軋む音を立て始める。
私はその音を、無視できなくなっていた。
今年も渡すのが当然、という空気はあった。
昼休みの会話は箱のサイズや限定の話で回り、渡す側の努力が称賛される。

受け取る側の沈黙や、その後の曖昧さは語られない。
私はそこに、違和感の正体を見た。

渡す行為が目的になり、選択が置き去りにされている。
似たような「友達以上恋人未満」の空気に心が揺れる瞬間は、私だけのものじゃないのだと思う。
もし同じ温度の揺れを確かめたくなったら、バレンタインに揺れる友達以上恋人未満の距離も、そっと覗いてみてほしい。
そして私は改めて思う。
選択とは、何かをすることだけではない。
しないことを選ぶ勇気も含まれている。

私は、期待を積み上げるより、関係の真実を尊重したかった。
彼が悪いわけではない。
ただ、同じ方向を見ていない。
それだけの事実を、甘い包みで覆いたくなかった。

午後、彼はいつも通りだった。
仕事の相談に真面目に応じ、冗談も言う。
私の机に小さなメモを残し、ありがとう、と笑った。
その笑顔を見て、胸の奥が少しだけ温かくなった。
そして同時に、決断が間違っていないことを確信した。

渡さないことで、私は自分に嘘をつかなかった。
期待しないふりをやめ、未来を曖昧にしないと決めた。
選択は静かだ。

拍手も、共感も、すぐには得られない。
それでも、夜に一人で部屋に戻った時、心は澄んでいた。
ふと、「断られた側」はどんな夜を過ごしているのだろうと想像する。
もしその静かな感情の行き先が気になるなら、バレンタインに断られた後に残った小さな優しさにも、似た余韻がある。
窓の外で、誰かの笑い声が遠くに聞こえた。

私は温かい飲み物を淹れ、今日を振り返る。
バレンタインは、渡す日でも、測る日でもない。
自分の価値観を確かめる日だ。
そう思えたことが、何よりの贈り物だった。

この物語が刺さった方は、
他の「選ぶ/選ばない」を描いた短編もぜひ続けて読んでみてください。
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