
闇の中に咲く小さな光
夜の渋谷は、昼とはまるで違う顔を見せていた。🖤
人の波に流されるように歩きながら、春菜はネオンの光に照らされる無数の人々の中に、ひときわ目立つ姿を見つけた。
真っ黒なレースのワンピース、長い袖からのぞく指先には銀のリング。赤と黒のヘアカラーに、涙袋を強調したアイメイク。🎀
それは「地雷系」と呼ばれるファッションの典型で、春菜の目を釘付けにした。
「かわいい……」
思わず口から漏れた言葉に、隣を歩いていた友人の理央が振り向いた。
「え? 春菜、ああいう系統好きだったっけ?」
理央は大学でも目立つ存在で、いつも明るい。対照的に春菜は自分に自信がなく、地味な服ばかり選んでしまう。✨
「……わからない。でも、なんか惹かれる」
春菜の視線の先にいたのは、一人でスマホを見つめる少女だった。その孤独な横顔に、春菜は胸を突かれるような感覚を覚えた。
その夜、帰宅した春菜はベッドに倒れ込みながらスマホを開いた。📱
「地雷系 ファッション」
検索欄に打ち込むと、無数の画像や記事が溢れ出す。そこには「痛々しい」「危うい」といった言葉も並んでいたが、不思議と春菜の心はざわつかなかった。
むしろ「その危うさの中にこそ美しさがある」と感じたのだ。
記事を読み進めるうちに、春菜はこのスタイルがただの流行ではなく「心の叫び」であることを知った。孤独や不安を抱える若者が、ファッションを通して自分を表現しようとしている——それが地雷系だった。🌙
数日後。春菜は勇気を出して、古着屋の一角に並ぶレースのブラウスを手に取った。🛍️
「お、いいねそれ」
店員が笑顔で声をかけてくる。
「地雷系っぽいけど、最近人気なんだよ」
春菜は頷きながらも、自分がそれを本当に着こなせるのか、不安でいっぱいだった。
家に帰り、恐る恐る袖を通す。鏡に映る自分は、これまでの春菜とはまるで別人のように見えた。👀
フリルに包まれた姿は、弱い自分を隠す鎧のようにも、逆に心をさらけ出すようにも感じられた。
「……これが、私」
小さくつぶやいた瞬間、胸の奥が熱くなる。春菜は初めて、自分を表現する手段を見つけたような気がした。🌸
春菜の変化に気づいたのは、最初に友人の理央だった。
「え、春菜……すごい雰囲気変わったじゃん!」
大学のカフェテリアで目を丸くする理央に、春菜は少し頬を赤らめながら答えた。
「似合わないかもしれないけど……挑戦してみたくて」
「似合わないどころか、めっちゃ似合ってる! いつもより自信ありそうに見えるよ」
その言葉に、春菜は心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。🔥
それからというもの、春菜は少しずつ地雷系のアイテムを集め始めた。ヘアピン、チョーカー、黒のプリーツスカート……。💍
ただの装飾品ではなく、自分の心を形にするような作業だった。
しかし同時に、視線も浴びるようになった。「あの子、ちょっと痛くない?」という囁きが耳に届くこともあった。
胸が締めつけられるような瞬間もあったが、不思議ともう以前のように怯えるだけではなかった。👊
「これは、私が選んだ姿だから」
そう心の中で繰り返すたび、少しずつ強さを手に入れていった。
ある日、春菜は渋谷の街で再びあの少女を見かけた。🖤
赤と黒の髪がネオンに照らされ、まるで物語の登場人物のように映える。
思わず足を止めて見つめていると、少女の方から声をかけてきた。
「ねえ、その服すごく似合ってる」
驚いて振り返る春菜に、彼女は優しく微笑んだ。
「私も最初は怖かった。でも、このスタイルが私を救ってくれたの」
その一言に、春菜の胸は大きく揺さぶられた。💫
少女の名前は「美紅(みく)」といった。二人はすぐに打ち解け、カフェで互いの話をすることになった。☕
美紅は、もともと人間関係に悩み、孤独を感じていたという。周囲から理解されず、塞ぎ込む日々の中で出会ったのが地雷系ファッションだった。
「外見を変えただけで、世界が変わったんだ。怖さもあるけど、同じような人に出会えた」
美紅の瞳には、強さと儚さが同居していた。その姿は、春菜にとって未来の自分のように思えた。✨
それから二人は、週末になると渋谷で会い、一緒に服を見たり写真を撮ったりした。📸
SNSに投稿すると、同じ趣味の仲間から「かわいい」「共感する」というコメントが届いた。時には否定的な言葉も混じったが、それ以上に共鳴してくれる声があった。
「つながってるんだね」
春菜がそう呟くと、美紅は嬉しそうに頷いた。
「うん。孤独だと思ってたけど、ほんとは一人じゃない」
その言葉は、春菜の胸に深く刻まれた。💞
春菜の日常は少しずつ変わっていった。大学で小さな輪の中にいた彼女が、自分の意思で世界を広げ始めたのだ。🌏
授業後に理央や他の友人と出かける回数も増えた。地雷系の服装をしていても、以前のように気まずさを感じることはなかった。
「春菜って、なんか前より楽しそうだね」
理央にそう言われた時、春菜は心から笑顔を返すことができた。
「うん。私、ようやく自分になれた気がする」
その夜、春菜は日記にこう書いた。🕯️
「闇の中に咲く花は、弱いからこそ強い。私はまだ小さなつぼみだけど、必ず咲いてみせる」
ページを閉じた時、胸の奥には確かな灯りがともっていた。
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