
言えなかった想いは、春の風に乗って🌸
「久しぶり」
それだけで、十七年前の春が蘇る気がした。
高校卒業以来、彼女と再び顔を合わせた。
地元でのクラス会。
東京でデザイナーをしている彼女が、帰省ついでに参加したと聞いたとき、心が少しざわついた。
高校三年の春。
卒業式のあと、伝えたい想いがあった。
でも、友達が言ってた。
「彼女、東京の大学に行くってさ。なんかもう将来の話ばっかりしてるらしい」
その言葉に、どこか遠くに行ってしまうような気がして、自分から距離を置いてしまった。
“告白したって、もう関係ないかもしれない”。
そう思って、「じゃあ、またね」とだけ言った。
それが最後だった。
クラス会の帰り、彼女と偶然同じ方向になった。
「歩いて帰るの、懐かしいね」
と、彼女がぽつり。
夜風に桜の花びらが舞っていた。
駅前の桜並木は、昔とほとんど変わっていなかった。
「卒業式のあと、あなたと話せなかったのが、今でもちょっと心残りで」
彼女の言葉に、足が止まる。
「え?」
「私、あのとき……すごく話したかった。
でも、そっけなくされて。きっと私なんか眼中にないんだって」
「そっけなくしたつもりなんてなかった。
むしろ、話したかったのに……勝手に届かないって思い込んでた」
お互いに、ずっとすれ違っていた。
伝えられなかった想いは、ちゃんとそこにあったのに。
桜並木を少し歩いた先、駅前のベンチが空いていた。
二人で並んで座る。
彼女が静かに微笑んだ。
「こうして話せてよかった。十七年越しだけど」
俺も笑い返す。
「タイミングなんて、案外どうでもいいのかもな」
風が吹いて、桜がまたひとひら、膝に落ちた。
高校の春に止まったままだった気持ちが、ようやく静かに動き出す。
終わったと思っていた恋は、まだ終わっていなかった。
この気持ちは、たぶん新しい一歩。
そして、十七年前のあの想いは、やっと過去として、やさしく置いていけた。
僕たちは、そのまま少しの間、言葉を交わさずに桜を眺めていた。
やっと春が、自分にもめぐってきた気がした。🌸🚶♀️🚶♂️
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