
「忘れられない呼び名」
駅のホームで聞こえたその名前に、僕の足は止まった。
「ユウキ」――懐かしさとともに蘇るのは、幼い頃の思い出だ。
家の庭で遊んだあの日。
風が吹き抜け、花の香りが漂う中、あの声が僕を呼んでいた。
「ユウキ、こっちだよ!」
それは、引っ越しの直前にできた唯一の友達がつけてくれたあだ名だった。
学校では本名でしか呼ばれなかった僕にとって、そのあだ名は特別だった。
けれど、記憶の中のその子の顔や名前までは思い出せない。
ただ、その呼び名だけが僕の心に引っかかり続けている。
電車がホームに滑り込む音で、ふと我に返る。
周囲を見回しても、名前を呼んだ人の姿は見つからない。
けれど、その声が確かに聞こえた気がするのだ。
電車に乗り込んで座ると、窓の外の景色が流れていく。
その中に、小さな公園が見えた。
「あの場所だったかもしれない」
心の奥に沈んでいた記憶が、今にも目覚めそうな気がした。🌟
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