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ひとこと小説「定位置の窓辺」

「最後のメッセージは、君の文字で」

「ねえ、今日もその席なんだね」
放課後、彼女が声をかけてきた📚
教室のいちばん端、窓際の席——そこが僕の“定位置”だった。

春に転校してきた彼女は、最初からこの席に興味を持っていた。
「景色がきれいに見えるから、好きなの」
そう言って、たまに僕の席に座って空を眺めていた🌤️
僕は、彼女と話せる時間が嬉しくて、わざと遅くまで残ったりもした。

だけど、ある日から彼女は急に来なくなった。
風邪だと先生は言っていたけれど、二週間経っても姿はなかった。

三週間目、彼女は転校することになったと知らされた。
僕はなにも聞かされていなかった。
胸の中に、ぽっかりと穴が空いたようだった。

その日、いつものように窓際の席に座っていると、机の引き出しに小さな封筒を見つけた💌
差出人の名前はなかったが、すぐにわかった。
彼女のあの丸文字——そして、内容。

「あなたの“定位置”に、私の気持ちも置いていきます」
「ずっと伝えたかったけど、勇気が出なかった」
「最後にここに座れて、よかった」
「また、どこかで会えたら——」

手紙の最後には、彼女の好きだった桜のシールが貼ってあった🌸
その日、僕はその手紙を何度も読み返し、胸ポケットにしまった。
誰にも見せず、大切な宝物として。

月日が経ち、大学のキャンパス。
僕は学生課でアルバイトをしていた。
ある日、履修相談に来た学生の名簿に、懐かしい名前を見つけた。

「……この時間、来るのかな」
そう思いながら、高校の頃と似た窓際の席——あの“定位置”を思い出させる場所を選んで座った。

すると、静かに扉が開き、
「やっぱり、そこにいると思った」

振り返ると、あの時の彼女が立っていた。
少し大人びた笑顔で、でもあの頃と変わらない声で。

「“定位置”って、ずっと空けておいてくれたの?」
僕は笑いながら頷いた😊
彼女の手にも、あのときの桜のシールが貼られた手紙のコピーが握られていた。

「私も、持ってたんだよ。あなたと同じように」
——それだけで、すべてがつながった気がした。

桜の咲く季節、再び“あの窓辺”の記憶から、物語は動き出した。

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