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ひとこと小説「電車の窓越し」

「降りなかった理由」

月曜の朝、電車は混み合い、心はいつもより沈んでいた☁️
仕事のこと、週末の虚しさ、繰り返すだけの毎日に、少し疲れていた。

駅に着いて、ドアが開く。
ふと視線を上げた先——

彼女がいた。
ホームの柱にもたれ、スマホを見ていた女の子。
でも、不意に顔を上げて、こっちを見た。

目が合った。

そして、笑った。

その瞬間、なぜか呼吸が止まった。
世界がスローモーションになったようだった。

誰かと勘違いしたのかもしれない。
あるいは、ただの偶然だったのかもしれない。
それでも、あの笑顔は、確かに僕に向けられていた気がした。

心が反応していた。
理由もなく、ただ無性に。

ドアが閉まりかけていた。
いつもなら、ここで降りる。
けれど今日は、足が動かなかった。

僕は降りなかった。

電車は滑るように発車する。
ホームがゆっくりと流れていく中、彼女の姿が小さくなっていく。
けれど最後まで、彼女は僕の方を見ていた。
そして、もう一度——笑った😊

その日一日、心の中にその笑顔が棲みついて離れなかった。
仕事も手につかず、スマホを何度も見ては、駅名を検索していた。

次の日。
僕はあの駅で降りた。

誰かを待つふりをして、同じ柱の前に立った。
落ち着かない時間。
ホームに人は次々現れては、電車に飲み込まれていく。

でも——

彼女は現れた。
同じ位置で、同じようにスマホを見ていた。
やっぱり、不意に顔を上げて、僕と目が合った。

そして、また——笑った。

今度は僕も、笑い返した。
それだけで、世界が少しだけ優しくなった気がした🌸

……と思った次の瞬間。
彼女が、少しだけ口元を動かして何かを言った。

「——また会えたね」

電車の音にかき消されて、声は届かなかったけど、唇の動きでわかった。
僕は思わず、ガラス越しにうなずいた。

次に彼女が微笑んだとき、
左手がゆっくりと、ポケットから何かを取り出して見せた。

——小さな紙切れだった。
書かれていたのは、たった一言。

「LINE、教えてもいいよ📱」

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