
「夜に溶けた、あの声の正体」
いつからか、夜になると決まってラジオを聴くようになった📻
深夜1時、雑音混じりに流れる“ナイト・ブリーズ”という番組。
都会の喧騒を忘れさせてくれる優しい女性DJの声が、僕の心を癒してくれた。
「今日も一日、おつかれさま」
その言葉が、まるで自分にだけ届けられているようで。
気づけば、毎晩欠かさず聴いていた。
「君の声、どこかで聞いたことある気がするんだ」
何気なく、ある日彼女にそう言った。
彼女は笑って「そうかな?」とだけ返した。
でも、その声がずっと頭から離れなかった。
イントネーション、言い回し、息継ぎの癖まで、どこか彼女に似ていた。
数日後、番組が突然最終回を迎えた。
「この声を、忘れないでくださいね」
涙混じりのラストメッセージ。
僕は急に、あの声をもう一度聴きたくなって、録音していた過去回を再生した。
その時、ふと気づいた。
イントネーション、言い回し、そして笑い方。
全部、彼女と同じだった。
――まさか。
次の日、彼女に録音を聴かせてみた。
すると、彼女は静かに頷いた。
「バレちゃったね」
そう言って、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
「実は大学時代に、内緒でやってたんだ。誰にも言わずに。名前も変えて」
「今も時々こっそりやってた。あなたにバレるまでは」
まさか、こんな形で彼女の“もう一つの顔”を知ることになるなんて。
でも、不思議と嬉しかった。
僕が毎晩癒されていた声が、ずっと隣にいた彼女の声だったなんて。
夜の秘密が、朝日に照らされてゆっくりと明かされた🌅
それ以来、僕は彼女と一緒にその録音を聴くようになった。
「今日も一日、おつかれさま」
その言葉に、もう隠し事はない。
彼女の声は、今も僕の心にやさしく響いている🎧
まるで夜の静けさに溶け込むように。
そしてきっと、これからも。
どんな日にも、あの声は僕を包み込んでくれる。
ふたりの夜は、ラジオの音とともに続いていく。
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