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ひとこと小説「消えたポラロイド」

「あの一枚だけ、なかった理由📷」

ポラロイド写真が好きな彼女の提案で、僕たちは写真機の前に立った。
くしゃくしゃの笑顔、ピースサイン、ちょっとふざけた変顔。
並んで撮った写真は全部で5枚。

その日、彼女の部屋で現像された写真を並べていたとき、ふと気づいた。

——1枚、足りない。

「え?全部で5枚撮ったよね?」
僕が言うと、彼女は一瞬だけ目をそらした。

「うん、そうだったかもね」

でも、彼女はそれ以上何も言わなかった。
まるで、無かったことにするように。

残された4枚の中に、ふたりの記念すべき「初めてのツーショット」はなかった。

彼女の笑顔が写っている1枚、僕がピースしてる1枚、
後ろ姿だけの1枚、そして、背景がぶれてる謎の1枚。

——どれも、二人一緒の写真じゃない。

「もうすぐ引っ越すんだ」
数日後、突然そう告げられた。

「親の都合でね」

あっけなくて、夢みたいだった。

彼女が部屋を去ったあと、僕は思い出の箱を開けて、もう一度写真を見返した。
ふと、写真の裏に小さなメモが貼られていることに気づいた。

《一緒に写ってたあの写真だけ、私は持っていくね。
 忘れたくないから。
 でも、忘れてもらってもいいように、他の写真だけ残しました。》

涙がこぼれるかと思ったけれど、出てこなかった。
ただ、静かに笑った。

彼女は言わなかったけど、全部わかってた。

消えたのは、写真じゃない。
彼女の中の、未練だったのかもしれない📸

あれから数年、スマホの写真ばかりになった今でも、あのポラロイドだけは忘れられない。
四隅が少し色あせて、部屋の片隅にある思い出の箱にそっと眠っている。

いつかまた、どこかで会えたら——
そのときは、もう一度写真を撮ろう。
今度こそ、何も隠さずに。

そしてできれば、もう失くしたくない。
シャッターの音とともに、今度こそちゃんと未来を写し込みたい📸
それが彼女に届かなくても、僕にとってはきっと意味があるから。

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