
「見えない絆」
人混みの中、ふと手を伸ばした瞬間だった。
彼の指先が私の指に触れた途端、何かがピンと張る感覚がした。
——これは……?
驚いて彼を見上げると、彼も同じように目を見開いていた。
「今、何か感じた?」
震える声で問いかけると、彼はゆっくりと頷く。
「うん……まるで、何かが結ばれているみたいに」
指先に絡まる見えない糸。
それは確かに存在しているとしか思えなかった。
「……運命の赤い糸?」
思わず口にすると、彼は困ったように笑った。
「そんなこと、あるわけ——」
そう言いかけた瞬間、強く引かれる感覚。
まるで、糸の先に何かがあるかのように、ふたりの身体が引き寄せられる。
「えっ⁉」
驚く間もなく、彼の腕の中に収まっていた。
「本当に……あるのかもしれないな」
彼の胸の鼓動が聞こえる。
心が、温かくなった。
「もしそうなら、私たちは……」
「きっと出会う運命だったんだよ」
ふたりの指先に、見えない糸がそっと絡みついたまま、離れることはなかった——。
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