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ひと言小説「鏡に映る母の影」🪞✨

「面影の中で」

鏡の前に立つと、ふと違和感を覚えた。

自分の顔を見つめるたびに、小さな変化が目に留まる。
少しずつ、亡き母の面影がそこに浮かび上がるような気がしてならない。

母がこの世を去ってから、10年が経つ。

生前の彼女は穏やかで芯の強い人だった。
厳しいながらも、愛情深く育ててくれた記憶が鮮明に蘇る。
特に料理をしている時の横顔や、庭で草花を手入れする姿は、子供ながらに眩しく映ったものだ。

「似てきたね」

親戚や昔からの知り合いにそう言われるたび、どう返事をしたらいいかわからなかった。
確かに目元や笑い皺の入り方は母にそっくりだと言われるが、鏡を見る限り、まだ自分の顔しか見えなかった。

しかし、最近は違う。

朝の準備で鏡を見るたび、何かが胸の奥でざわつく。
まるで母が微笑みかけてくるかのような錯覚に陥る。

「そんなはずないよね…」

そう自分に言い聞かせるが、気のせいだと思い切れない。
鏡越しに見える姿が、いつの間にか母の若い頃の写真に重なり始めているのだ。

ある日、引き出しの奥から古いアルバムを取り出してみた。

母が二十代だった頃の写真がそこにあった。
花柄のワンピースを着て微笑む姿は、今の自分と驚くほど似ていた。
いや、似ているどころか、そこにいるのはまるで自分自身のようだった。

「…そっか」

その瞬間、心の中で何かが解けるような感覚があった。

母の面影を感じるのは、単に外見だけの話ではないのかもしれない。
彼女が生きた証や想いが、自分の中に受け継がれている。
鏡に映る顔に母を見たのは、その深い絆の表れなのだろう。

その日から、鏡の中の自分を見るのが少しだけ楽しみになった。 🪞✨

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